金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ
第2回パート3
2024年9月14日開催の「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会(第2回)」後半パートでは、ブロックチェーンとオープンデータがクレジット市場の透明性と流動性をどのように底上げし得るかをめぐり、KlimaDAO JAPANとClimate Action Data Trust(CAD Trust)が登壇した。
国内外で乱立する認証基準や登録簿の分断、取引コストの高止まり、ダブルカウント(二重計上)リスク、不十分な資金循環など、多くの課題を前に、両者は「分散型台帳技術×オープン API」によるインフラ刷新を目指す戦略を発表した。
KlimaDAO JAPANのクレジット×ブロックチェーン戦略
前述のようなカーボンクレジット市場の課題に対して、KlimaDAO JAPANはブロックチェーン技術が提供し得るソリューションを網羅的に提示しました。
- 市場の統合と簡素化:分散型台帳によってグローバルな供給調整が可能に。
- 透明性の向上:改ざん不可能な取引履歴により、トラストレスな信用構築。
- dMRVとの統合:リアルタイムな炭素隔離効果の検証が可能。
- スマートコントラクト:カーボンクレジットの一意性保証とダブルカウント(二重計上)排除。
- 取引コストの削減:中間業者排除によるプロセス効率化。
- 市場アクセスの拡大:トークン化による小口化が多様な参加者を招き入れる。
- 開発資金のダイレクトな還流:仲介コスト削減によりプロジェクトに資金集中。
世界経済フォーラムの2023年4月のホワイトペーパーでもこうした可能性が強調されており、国際的な認知も高まりつつあることを説明した。
トークン化の仕組み
カーボンクレジットのトークン化は、「ブリッジ」と「プール」の二段階で構成される。
ブリッジとは、オフチェーン(通常)のカーボンクレジットを、リタイア処理(償却)を通じてオンチェーンのトークンに変換すること。
プールとは、複数のトークンをひとつの流動性プールに集約し、BCT(Basic Carbon Tonne)トークンとしてコモディティ化すること。
KlimaDAOとToucan Protocolによって設計されたこの仕組みにより、取引の柔軟性と信頼性が向上し、カーボンクレジットの市場流通を劇的に変革しうる基盤が整備された。
KlimaDAOの概要と日本展開
KlimaDAOは2021年に設立された分散型自律組織(DAO)であり、透明性・中立性・公共性を備えたカーボンクレジット取引インフラの提供を目指す。過去にはVerraのカーボンクレジット約2,500万トンをトークン化し、既に150以上の団体がKlimaDAOのツールを利用している。
こうした知見を日本国内に展開する拠点がKlimaDAO JAPAN株式会社。同社は現在、日本向けにカーボンクレジット取引マーケットプレイス「KlimaDAO JAPAN MARKET」の開発を進めており、日本円ステーブルコイン「JPYC」やパーミッションレスブロックチェーン、オプテージ社インフラとの統合を目指している。
国内での実証事例として、西海市とのカーボンニュートラルプロジェクトでは、デジタルカーボン、NFT、メタバースを用いて、市民参加型の気候変動対策を実装。KlimaDAO JAPAN MARKETでは、ブロックチェーンインフラとステーブルコインを活用し、透明性と効率性に優れた企業間取引を提供し、Carbonmarkとの連携によりクロスボーダー取引も可能に。またNFTオフセットサービス「tancre」では、イベント参加者に向けてカーボンオフセット体験を提供し、証明書NFTが個人の環境貢献を可視化し、インセンティブ設計の余地も持つ。IVS KYOTOやDAO TOKYOで実績を積んでいることを説明した。
参考:KlimaDAO JAPAN株式会社.長崎県西海市で開催された「2024 ZERO CARBON DAY」に登壇。NFTを活用したイベントのカーボンニュートラル化にも成功。.2024年11月24日
参考:KlimaDAO JAPAN株式会社.KlimaDAO JAPAN、ブロックチェーン基盤のカーボンクレジットマーケット「KlimaDAO JAPAN MARKET」の実証実験開始。オプテージがウォレット提供、みずほFGが実務サポート.2024年11月18日
参考:KlimaDAO JAPAN株式会社.誰でもイベントなどのカーボンオフセットに参加できる! PBADAOとKlimaDAO JAPAN、日本初のグリーンNFTプロジェクト立ち上げサービス「tancre」始動!IVS Cryptoで実証実験.2024年7月1日
技術的・制度的課題の指摘
発表後の質疑応答では、委員から、トークンの裏付け信頼性や償却の透明性、パーミッションレス型ブロックチェーンの管理負荷について質問が寄せられた。
メンバーは「BCTは、Verra上で一度リタイア処理されたカーボンクレジットのシリアル番号をNFTに紐付けてオンチェーン移行する仕組みをとっているが、この手法はVerra側の懸念から現在ブリッジが停止されている」と課題を指摘した。
これに対しKlimaDAO JAPANは、J-クレジットでの実装を目指す形として、一度クレジットを預託し、自らトークンを発行することで、オンチェーン⇄オフチェーンの双方向移動を実現する仕組みを説明。また、トークンは無効化ウォレットに送付することで償却され、パブリックチェーン上で誰でも確認可能といった透明性についても説明し、森林・再エネ・バイオ炭など用途別のプールが存在し、ユーザーは償却時に任意のカーボンクレジット種別を選択可能といったプールの多様性についてもアピールした。
KlimaDAO JAPANは、日本国内におけるブロックチェーン活用型カーボンクレジット市場の制度的整備を進めるとともに、JBA(日本ブロックチェーン協会)サステナビリティ分科会の一員としても産業横断的な取り組みに関与している点についても説明し、今後の課題として、カーボンクレジット認証機関とのAPI連携などを挙げた。
既に海外ではこうした連携が進んでおり、日本市場でも同様の制度整備と技術標準化が急務となる。
参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第2回)議事録.令和6年9月10日
参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第2回)議事次第.令和6年9月9日