金融庁「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」の設立背景

村山 大翔

村山 大翔

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金融庁カーボンクレジット取引インフラ検討会解説シリーズ

第1回パート1

2024年6月10日、金融庁は「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」初回会合を開催した。座長を務める早稲田大学の根本教授は、透明性と投資家保護を確保した市場づくりを掲げ、国内外の最新動向を踏まえた実務的議論のキックオフを宣言した。

設立背景

開会の挨拶で根本座長は、「カーボンクレジット取引の透明性・健全性を高め、投資家保護を促進する観点から市場インフラと慣行を検討する」と述べ、国際証券監督者機構(IOSCO)や各国政府が示す課題意識と歩調を合わせる姿勢を示した。

続いて金融庁の堀本政策立案総括審議官は、東京証券取引所の取引やブロックチェーン活用、地域金融機関によるカーボンクレジット創出支援など、国内でも取引の多様化が進んでいる現状を紹介し、「投資者保護を念頭に幅広い論点を議論する場にしたい」と呼び掛けた。

事務局資料は、カーボンクレジットが2015年パリ協定以降に急拡大し、民間主導のボランタリーカーボンクレジット市場だけで2030年に5,000億ドル規模へ成長する可能性を指摘する。市場が分断され同一クレジットのダブルカウント(二重計上)リスクが生じかねないといった課題意識が検討会立ち上げの直接的な背景にある。

議題は四点に整理された。

  • ①国内外の取引実態
  • ②ブロックチェーンやトークン化といったテクノロジーの適切利用
  • ③登録簿(レジストリ)・取引所などインフラの在り方
  • ④仲介・助言サービスを含む取引慣行

である。排出量取引制度(ETS)そのものの法制度設計は別途経産省・環境省の研究会で扱うため、本検討会ではあくまで実務・市場側面を中心に議論する。

資料はまた、昨年10月に開設された東京証券取引所のカーボンクレジット市場を例示し、J-クレジット約28万トン(総額7.3億円)が既に取引された事実を挙げて「国内でも価格指標形成と流動性確保の芽が出ている」と評価する。

こうした国内の先行事例と、IOSCOが提示する21項目のグッドプラクティス(標準化・透明性向上・取引モニタリングなど)を突き合わせながら、国際整合的なルールメークの必要性が強調された。

初回会合の後半では、三大メガバンクの担当者が招かれ、各行が展開するカーボンクレジット仲介ビジネスや顧客支援策を説明した。次回パートでは各行の内容を詳述し、国内プレーヤーのビジネスモデルと課題を深掘りする。

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事録.令和6年6月10日

参考:金融庁.「カーボン・クレジット取引に関する金融インフラのあり方等に係る検討会」(第1回)議事次第.令和6年6月7日