熱帯地域での植林が最強のCO2除去の手段、オックスフォード大学の報告書

村山 大翔

村山 大翔

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注目される炭素除去手段の選択肢

炭素除去(CDR:Carbon Dioxide Removal)は、気候危機に立ち向かううえで不可欠な要素として注目されています。中でも、直接空気回収(DAC:Direct Air Capture)などの技術系CDR手法が先端的な解決策として取り上げられる一方で、森林再生などの自然に基づく解決策(NbS:Nature-based Solutions)は、シンプルかつ多面的な利点を持ち、見直されつつあります。

本コラムでは、環境NGOのWord Forestとオックスフォード大学の研究チームが発表した新たな報告書『A Comprehensive Guide to Carbon Drawdown Technologies』をもとに、熱帯地域における森林再生CDRの優位性と今後の課題を整理します。

要点整理(サマリー)

  • 森林再生は「低コスト・低複雑性・高吸収力」の三拍子を備えたCDR手法である
  • 技術系CDR(DAC、ERW、OAE等)は高コストかつ展開が限定的
  • 熱帯地域(特にケニア)では、北半球の10倍のスピードで森林が成長
  • 「Word Forest」はケニアで140万本の植樹と環境教育を展開し、実効性を示す
  • 市場の透明性と森林価値評価の制度整備が次の課題

CDR手段の選定をめぐる新たな視点

温室効果ガス削減に向けた世界的な努力の中で、CDRは「削減だけでは足りないCO2を除去する」最後の砦としての役割を担っています。現在、多くの企業や政府はDACなどの技術開発に資金を投じていますが、今回の報告書は、再植林こそが「費用対効果」と「即時性」において最も実用的な手法であると結論づけました。

技術系CDRの課題、コストとスケーラビリティの壁

高コストの現実

  • DAC:1トンあたり200~1,000ドル超
  • BiCRS(Biomass with Carbon Removal and Storage):100~200ドル
  • 海洋アルカリ化(OAE):50~200ドル

これらの手法は、いずれも試験的・初期段階であり、大規模展開には莫大なエネルギーと資金が必要です。特にDACは、運用に化石燃料を伴う限り、純減効果を打ち消す恐れも指摘されています。

限定的な吸収能力

たとえば岩石風化促進(ERW:Enhanced Rock Weathering)は、2035年までに1ギガトンのCO2吸収が可能とされますが、現在の世界排出量(年間40ギガトン)と比較すれば限定的です。

森林再生の実力

高速成長と低コストの両立

熱帯地域の森林、特にケニアでは、1本の木が5〜7年で0.25トンのCO2を吸収します。また、成長スピードは北半球の最大10倍にもなり、広大な未活用地(現在の樹冠率は約10%)が存在するため、スケール拡大のポテンシャルは圧倒的です。

Word Forestによる実証

Word Forestは、ケニアで既に140万本以上の樹木を植え、女性主体のコミュニティ「Mothers of the Forest」による育成・保護活動を展開しています。教育、収入支援、食料・薬品供給の側面からも地域に大きな貢献を果たしており、「社会包摂型CDR」の好例といえます。

今後の展望と課題

報告書では、森林再生の優位性は明らかとした上で、現在のカーボンクレジット市場では技術系CDRへの過剰投資が続いていると指摘し、その背景には、自然ベース手法の評価方法が未成熟である点が挙げられるとしています。

まとめ

本コラムは、オックスフォード大学の研究支援を受けた報告書に基づき、熱帯地域の森林再生が現時点で最も有望かつ実行可能なCDR手法であることを示しました。自然と共生しながらCO2を確実に吸収し、地域社会にも便益をもたらすこの方法は、持続可能な炭素除去の核として、政策・投資の両面から再評価されるべきです。

参考:https://www.wordforest.org/wp-content/uploads/2025/06/A-Comprehensive-Guide-to-Carbon-Drawdown-Technologies.pdf