ノルウェー国会(ストーティング)は2026年2月26日、2030年までにカーボンニュートラルを実現するという国家目標を撤回することを可決した。この決定により、パリ協定第6条に基づくカーボンクレジット調達のために計上されていた150億ノルウェークローネ(約16億ドル/約2,400億円)の予算が執行停止となるリスクが浮上している。北欧の環境先進国による方針転換は、世界のカーボンクレジット市場に大きな波紋を広げている。
今回の決議は、2016年に採択された「2030年までのカーボンニュートラル達成」というノルウェー独自の野心的な目標を事実上放棄するものだ。この目標は、国内の排出削減に加えて、海外からのカーボンクレジット購入によるオフセットを前提としていた。
ノルウェー政府がカーボンクレジット調達のために確保していた150億クローネ(約2,400億円)の使途については、2026年5月に予定される修正予算案で大幅な削減または再配分が議論される見通しである。市場分析の専門家は、この動きがパリ協定第6条に関連するカーボンクレジットの短期的な需要を著しく減退させると予測している。
目標撤回の背景には、既存の枠組みの不透明さがある。ノルウェー国会議員らは、2030年目標の実施計画や詳細なコスト試算が欠如している点を指摘してきた。
また、WWF(世界自然保護基金)やノルウェーの環境基金であるZERO(環境基金ゼロ)といったNGOからも、「巨額の資金を海外のカーボンクレジット購入に充てるよりも、他の形態の気候資金や国内の直接的な技術革新に投資すべきだ」との提言がなされていた。これら国内外の批判が、今回の政治的決断を後押しした形だ。
一方で、ノルウェー政府は気候変動法に基づく法的義務を放棄したわけではない。1990年比で2030年までに国内排出量を55%削減する目標、および2050年までに「低排出社会」を実現し、排出量を90〜95%削減するという長期目標は引き続き維持される。
今後は、安易なカーボンクレジットによる相殺に頼るのではなく、国内産業の脱炭素化や、より透明性の高いカーボンクレジットの活用方法へと戦略をシフトさせるものとみられる。
ノルウェーの事例は、国家による「量(オフセット)」から「質(国内削減と真の貢献)」への戦略転換を象徴している。日本企業、特にカーボンクレジットの活用を検討している中小企業にとっては、第6条クレジットの需要変動による価格低下が短期的にはチャンスとなる可能性がある。しかし中長期的には、ノルウェーのように「排出枠を買って解決する」手法への批判が強まることを予測し、国内での省エネや直接的な炭素除去(CDR)技術への投資を優先すべき時期に来ていると言える。
