英国北西部で進められる大規模炭素回収・貯留(CCS)計画「HyNet(ハイネット)」をめぐり、反対団体HyNot(ハイノット)が政府を相手取り司法審査を申請した。エネルギー安全・ネットゼロ省と北海移行庁(旧石油ガス庁)が今年3月から4月にかけて同計画を承認したことについて、環境リスクや重大事故の可能性を十分に審査せず違法であると主張している。
HyNetはイタリアのエネルギー大手エニ(Eni)が中心となり、スタンロー製油所でのブルーハイドロジェン製造や地域の産業施設から排出されるCO2を回収し、リバプール湾の海底に輸送・貯留する構想だ。既存ガスパイプラインの転用と新設配管、さらに13本の井戸掘削を含み、2028年の稼働を目指している。政府は25年間で220億ポンド(約4兆3,000億円)の補助金を見込んでおり、エニは今年4月に事業資金調達の最終合意を発表していた。
しかしHyNotは、①環境影響評価規則に基づく重大事故リスクの検討不足、②ブルーハイドロジェン生産を含むHyNet全体の気候影響評価の欠如、③欧州生息地保護規制への不適合、④不透明な分割申請による形骸化した市民参加――を問題視している。団体はクラウドファンディングで訴訟費用を募り、許可取り消しを求めている。
HyNotの活動家ニッキー・クロスビー氏は「巨額の補助金は納税者と消費者負担であり、恩恵を受けるのは化石燃料企業だけだ」と批判した。別のメンバー、キャサリン・グリーン氏も「ブルーハイドロジェンは持続可能でなく、CCSは実効性に乏しい。政府は再生可能エネルギーや電化に投資すべきだ」と訴えた。さらに、イタリアではエニが過去の爆発事故で捜査対象となっていることや、CO2漏洩による窒息や海洋酸性化の危険性にも言及した。
一方、HyNetアライアンスは「2,000人超の建設雇用を生み、セメントや廃棄物発電など地域産業の低炭素化を支える基盤」として、雇用と地域経済の成長を強調する。英国政府も「クリーンエネルギー超大国への布石」として支援を表明している。
今後、司法審査での判断次第では、英国の低炭素成長戦略の中核とされるCCS推進政策に影響を及ぼす可能性がある。初回審理の日程は今秋にも決定される見通しだ。