南太平洋の島しょ国バヌアツは2月10日、国連総会(UNGA)に対し、国際司法裁判所(ICJ)が2025年7月23日に示した気候変動に関する勧告的意見を正式に支持する「ゼロドラフト」決議案を提出した。ICJが国際法上の国家義務を明確化した判断を、各国の具体的な政策と責任に結び付けることが狙いである。決議は3月末までの採決を目指す。
今回の勧告的意見は、気候変動による被害の予防と救済について、国家が拘束力ある法的義務を負うと全会一致で明確化した点が特徴だ。ゼロドラフトは、この判断を国連加盟国が「全面的かつ無条件に歓迎する」と明記し、国際法秩序の下での履行を政治的に後押しする構成となっている。
決議案は、バヌアツのほか、オランダ王国(Kingdom of the Netherlands)、シンガポール共和国(Republic of Singapore)、ケニア共和国(Republic of Kenya)、バルバドス、マーシャル諸島、ミクロネシア連邦など、地域横断のコアグループが起草に参加した。気候脆弱国と欧州諸国、アジア諸国が連携する形だ。
ゼロドラフトの柱は三つある。第一に、ICJの勧告的意見を公式に承認すること。第二に、裁判所が示した法的義務に沿って各国の気候政策を整合させ、排出削減や適応策を強化すること。第三に、気候正義の実現に向け、勧告的意見を実務に落とし込む仕組みを整備することである。ここには、気候関連損害に対する賠償や補償の議論も含まれる。
この点は、カーボンクレジット市場や炭素除去(CDR)にも直接的な影響を及ぼす可能性がある。ICJが国家の予防義務や救済義務を明確にしたことで、各国は自国の排出削減努力を強化する法的・政治的圧力を受ける。排出削減が不十分な場合、国際的な補完手段として高品質なボランタリークレジットや、恒久的な炭素除去の導入を加速させる動機が高まる構図である。
一方で、単なるオフセット依存では義務履行として不十分と判断される可能性もある。特に、追加性や永続性が担保されないクレジットは、法的責任の文脈で厳しく検証される公算が大きい。結果として、DAC(直接空気回収)やBECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯留)など、科学的に裏付けられたCDRへの需要が中長期的に増す可能性がある。
バヌアツの国連常駐代表オド・テビ大使は、「勧告的意見は権威ある法的明確化を与えた。今後の集団的責任は、この明確性を世界的な気候行動の強化につなげることだ」と述べた。
また、ラルフ・レゲンバヌ気候変動相は、「国際法の尊重が揺らぐ地政学的状況下で、裁判所の判断を履行することは国際制度の信頼性に不可欠だ。紙の上の判断にとどめず、『生きた義務』としなければならない」と強調した。
今後、2月13日と17日にニューヨークで非公式協議が開かれ、加盟国間で文言調整が行われる。国連総会決議は安全保障理事会と異なり拒否権はなく、単純多数で採択される。バヌアツは3月末までの採決を目指す。
決議が採択されれば、ICJの法的解釈は政治的な国際合意として裏打ちされることになる。各国のNDC(国が決定する貢献)や国内排出量取引制度、さらには国際的なカーボンクレジットの品質基準にも波及する可能性がある。気候損害の補償と炭素市場の信頼性がどのように接続されるのかが、3月末の採決に向けた最大の焦点となる。
