インド政府系シンクタンクのニティ・アーヨグ(NITI Aayog)は2月9日〜10日、ニューデリーで「Viksit Bharat(先進インド)2047」と2070年ネットゼロを両立させるための包括的ロードマップを公表した。報告書は全11巻で構成され、経済成長と温室効果ガス(GHG)排出削減を統合的に分析する初の政府主導モデルだ。石炭消費は今後数十年増加するが、炭素回収・利用・貯留(CCUS)や非化石電源の拡大により、2070年に排出実質ゼロを達成できると結論づけた。
報告書「Scenarios Towards Viksit Bharat and Net Zero」は、インドのエネルギー需要が現在の約2.5倍に拡大するとの前提で、複数の移行シナリオを提示した。ネットゼロ経路では、石炭需要は2050年に18億3,000万トンへ達し、現状比75%増となる見通しだ。その後は急減し、2070年には1億6,100万トンまで縮小する。残存需要は鉄鋼やセメントなど「削減困難分野」に限定され、CCUSの併用が前提となる。
電力部門では、非化石電源比率を2025年の約23%から2070年には100%へ引き上げる目標を掲げた。蓄電池、グリーン水素、原子力が中核を担い、原子力容量は2070年までに290〜320ギガワットへ拡大する想定である。これは現在の世界最大級の原子力国に匹敵する規模であり、技術導入と国際協力が不可欠となる。
ネットゼロ達成には、2070年までに累計22兆7,000億ドル(約3,400兆円)の投資が必要と試算した。年間平均では約5,000億ドル(約75兆円)に相当する。このうち6兆5,000億ドル(約975兆円)の資金不足が見込まれ、少なくとも6兆ドル(約900兆円)を国際資金で賄う必要があると明示した。
この資金ギャップは、国際炭素市場や二国間クレジット制度の拡充と直結する。インドはパリ協定第6条に基づく国際炭素取引の主要供給国となる可能性があり、再生可能エネルギー、水素、CCUS、自然由来の炭素除去(CDR)プロジェクトがクレジット創出源となる。特に石炭火力の段階的縮小とCCUS導入は、高品質な排出削減・除去クレジットの生成と結び付く。
ニティ・アーヨグのスーマン・ベリ副議長は「2070年ネットゼロは、2047年以降の世界に対するインドの責任を示す目標である」と述べた。同機関のB.V.R.スブラマニアムCEOは「インドの石炭消費は2047年まで増加するが、電化、グリーン電力、需要抑制、資源循環、そして外部資金が戦略の柱だ」と説明した。
環境・森林・気候変動省(MOEFCC)のタニマイ・クマール事務次官は「共通だが差異ある責任の原則の下で、インドはネットゼロを達成できる」と強調した。
報告書は、2047年時点で国土やインフラの約85%が未整備である点に注目し、「気候適合型の新規建設」が可能だとする。これは既存高排出資産を抱える先進国と異なる強みであり、建設段階から低炭素設計を組み込める。
一方で、電力の完全脱炭素化と産業部門の排出削減には、CCUSやバイオエネルギー炭素回収・貯留(BECCS)、直接空気回収(DAC)などの炭素除去技術の導入が不可欠となる。2070年ネットゼロは単なる排出削減ではなく、一定規模のCDRを前提とする構造である。
インドが国際炭素市場で存在感を高めれば、グローバルサウス諸国にとっても資金・技術動員モデルとなる可能性がある。報告書は、今後の政策設計や国際交渉の基盤文書として機能する見通しで、具体的な制度設計は次期気候行動計画の改定時期が焦点となる。
参考:https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2225661®=3&lang=2
