前回のコラムでは、カーボンニュートラル訴求における批判の具体事例を整理した。企業が環境への貢献を強調する際、その意図に反してグリーンウォッシュ(環境配慮をしているように見せかけること)と見なされるリスクは、かつてないほど高まっている。特に一般消費者向けのビジネスを展開する企業にとって、ブランドイメージの毀損は損失となる。
前回の記事:なぜカーボンクレジットは「炎上」するのか? 具体的な事例から広報・サステナ担当が知っておくべき批判の正体と、過剰なリスク回避の罠
本稿では、法的根拠と国際的な指針の観点から、どのような表現がリスクを孕み、どのような説明が求められるのかを深掘りする。
日本における法的根拠とガイドラインの立ち位置
日本国内でカーボンニュートラルを訴求する際、まず理解すべきはルールの二層構造である。
一つは環境省が策定した「カーボン・オフセット ガイドライン Ver.3.0(オフセットガイドライン)」であり、もう一つは「不当景品類及び不当表示防止法(景表法)」である。
オフセットガイドラインは、カーボンオフセットの適切な実施や表示のあり方を示した指針であるが、これ自体に直接的な法的拘束力はない。つまり、実質的な法的拘束力を持つのは景表法である。景表法は、商品やサービスの品質、内容について、実際よりも著しく優良であると消費者に誤認させる表示(優良誤認)を厳格に禁じている。
たとえオフセットガイドラインに沿った取り組みであっても、広告上の見せ方が消費者に「この製品を製造する過程でCO2が全く排出されていない」という誤解を与えれば、景表法違反に問われる可能性があると言えるだろう。
企業はガイドラインを技術的指標として参照しつつ、最終的な広告表現については景表法の基準に照らして判断するという、統合的な視点が不可欠である。
欧米の規制動向と用語のジレンマ
国際的な規制に目を向けると、欧州連合(EU)では環境訴求に関する新たな指令が採択されるなど、カーボンオフセットのみに頼った「カーボンニュートラル」という言葉の使用を制限する動きが加速している。一方、その他の国々においては、日本と同様に既存の広告規制やマーケティング関連法に基づいた判断が主流である。
こうした規制強化への対応として、アメリカなどの市場では「カーボンニュートラル」に代わり「クライメート・ニュートラル(気候中立)」という言葉を用いる動きも見られる。例えば、非営利組織であるクライメート・ニュートラル(Climate Neutral)が発行するラベルなどがその一例である。

しかし、ここで注意すべきは消費者への伝わり方である。
カーボンニュートラルという言葉ですら完全に浸透したとは言い難い日本市場において、クライメート・ニュートラルという、より抽象度の高い表現を用いることは、消費者にとって「何を指しているのかよくわからない」という不透明感を与えかねない。
用語の置き換えは一時的なリスク回避にはなるかもしれないが、本質的な信頼構築には繋がりにくいという側面がある。
具体的表現のボーダーライン、OKとNGの境界線
消費者に誤解を与えないためには、曖昧な表現を避け、事実を正確に補足することが求められる。以下に、広告表現における具体的な表現例をまとめる。
| 表現の種類 | リスクの判断 | 理由と代替案 |
| 「CO2ゼロ」「排出ゼロ」 | NGリスクが高い | 製造工程での排出がゼロであると誤解させるため。カーボンクレジット活用を明記する必要がある。 |
| 「環境に優しい」 | NGリスクが高い | 抽象的すぎて根拠が不明確。どの部分がどう環境に良いのかを具体的に示すべきである。 |
| 「カーボンニュートラルな製品」 | 条件付きOK | 注釈で「排出量の〇%をカーボンクレジットで相殺」など、手法と範囲を明示した場合は許容される。 |
| 「〇kgのCO2をオフセット」 | OK | 数値的な根拠に基づき、カーボンオフセットの事実のみを簡潔に伝える表現は信頼性が高い。 |
例えば、「この商品はカーボンニュートラルです」と言い切るのではなく、「製造過程で排出されるCO2について、信頼性の高いJ-クレジットを活用してカーボンオフセットしています」といった一文を添えることが、景表法上のリスクを低減させる鍵となる。
透明性がブランド価値を担保する
カーボンクレジットを活用したマーケティングにおいて、最も避けるべきは「事実の飛躍」である。
カーボンクレジットはあくまで排出削減努力を補完する手段であり、それを「排出そのものがなかったこと」のように表現することは、現代の消費者の倫理観や法的基準に照らして許容されない。
今後、B2C企業に求められるのは、完璧な「ゼロ」を謳うことではなく、現在地を正直に開示する誠実さである。どの範囲の排出を、どのようなカーボンクレジットで、どの程度補ったのか。
そのプロセスを透明性高く伝えることこそが、ブランドの信頼性を高め、結果として法的リスクから企業を守る最良の戦略となるだろう。
