カナダのケベック州政府は2026年2月5日、二酸化炭素(CO2)の地質学的貯留を包括的に管理する「法案17号」を州議会に提出した。
サミュエル・プーラン(Samuel Poulin)経済・中小企業担当大臣が発表した同法案は、これまで未整備だった地下貯留の探査および利用に関するライセンス制度を確立するものである。これにより、法的な不透明さから停滞していた炭素回収・貯留(CCS)および直接空気回収(DAC)プロジェクトの商用化に向けた動きが、同州で一気に加速する見通しとなった。
本法案は、CO2の貯留だけでなく、圧縮空気貯留、地熱発電、地質水素の抽出といった戦略的エネルギー分野も対象としている。具体的には、貯留サイトの承認プロセス、公聴会の実施、運営基準、閉鎖後の管理義務などを明確に規定する。これまで適切な監視枠組みがなかったことで、ショーディエール・アパラッシュ地域やセンター・デュ・ケベック地域で進行中のプロジェクトが足止めされていたが、新法によってこれらの事業に道筋がつくことになる。
産業界への影響は極めて大きい。
モントリオールを拠点とするディープ・スカイ(Deep Sky)は、本法案を「歴史的な転換点」と高く評価している。同社はセットフォード・マインズの拠点で、大気中から回収したCO2を水と混合して地下に永久貯留する試験にすでに成功しており、規制の施行を受けて2027年にも大規模な施設建設を開始し、2028年の本格稼働を目指す方針だ。
ケベック州は、岩塩帯水層に8ギガトン、マフィック岩(苦鉄質岩)に最大800ギガトンという膨大なCO2貯留能力を有すると推計されている。州政府は2045年から2050年までに年間1,300万トンの炭素除去(CDR)能力を確保する目標を掲げており、本法案はその達成に不可欠な法的基盤となる。
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また、この規制枠組みが整うことで、事業者は最大60%に達するカナダ連邦政府のDAC投資税額控除を受けられるほか、ボランタリーカーボンクレジット市場での高品質なカーボンクレジット創出も可能になる。
プーラン氏は「この法案は企業に予測可能性を提供し、地域の地質学的資源を活用した投資を促進する」と述べた。州政府の試算によれば、これらの新産業を通じて今後5年間で少なくとも500人の雇用が創出される見込みである。
法案は今後数週間以内に議会委員会で審議され、2026年末までの最終採択と施行を予定している。
ケベック州の動きは、単なる地方政府の規制整備に留まらず、北米における「高品質カーボンクレジット供給拠点」としての地位を決定づける戦略的な一手だ。特に注目すべきは、既存の石油探査禁止を維持したまま、炭素貯留のみを許可するという一貫した環境政策である。
日本企業にとっても、カナダは三菱商事や三井物産などが先行して投資を行っている重要地域だが、今回の法整備により「許認可リスク」が大幅に低減される。
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安価な低炭素水力発電と強固な法的枠組みが組み合わさることで、ケベックは世界で最も競争力のあるDAC・CDR事業の集積地となるだろう。
今後は、2026年末の施行に向けた具体的な技術基準の詳細が、カーボンクレジットの価格形成にどう影響するかが焦点となる。
