産業炭素価格は「見せかけ」ではなく「成果」を カナダ気候研究所が制度の抜本改革を提言

村山 大翔

村山 大翔

「産業炭素価格は「見せかけ」ではなく「成果」を カナダ気候研究所が制度の抜本改革を提言」のアイキャッチ画像

カナダ気候研究所(CCI)は2026年2月2日、連邦政府が進める産業向け炭素価格制度のベンチマーク見直しに対し実効性を重視した抜本的な改革を求める提言を公表した。

アルバータ州の制度をモデルとした57通りのシナリオ分析によれば、現行の連邦基準をクリアするシステムの77%が、2030年までに目標とする1トンあたり130カナダドル(約14,300円)の実効的な投資インセンティブを達成できないことが判明した。同研究所は、表面上の市場価格ではなく企業が実際に直面する「実効限界クレジット価格(EMCP)」を評価の柱に据えるべきだと主張している。

今回の分析を主導したCCIのチーフエコノミストであるデイブ・ソーヤー氏らは、現行の評価手法が「市場が機能しているか」という流動性の確認に留まり、本来の目的である排出削減を促す「厳格さ」を測定できていないと指摘した。特に、排出事業者が削減プロジェクトに直接資金を投じることでコンプライアンスを果たす「直接投資クレジット」などの仕組みが、市場の希少性を損ない、実効価格を平均で約60カナダドル(約6,600円)も押し下げる要因になっていると警告している。

この希薄化により、見かけ上のコストは下がるものの、実際の排出削減量は半分以下にまで落ち込む可能性があるという。

制度の形骸化を防ぐため、レポートでは「ベンチマークの段階的な引き締め」を最も重要なレバーとして位置づけている。ベンチマークの強化は、市場におけるクレジットの希少性を直接的に生み出す唯一の手段であり、他のいかなる設計変更もこれに代わることはできない。また、価格の下限(フロア)を上限(シーリング)に連動させて上昇させる「価格コリドー」の導入により、供給過剰時でも投資信号を安定させることが不可欠であると説いている。

こうした制度改革は、カナダ国内の気候目標達成のみならず、国際貿易上のリスク回避にも直結する。

欧州連合(EU)が導入する炭素国境調整措置(CBAM)などの炭素関税からカナダの輸出産業を保護するためには、国内の産業向け価格制度が国際的に見て十分な厳格さを備えていることを証明しなければならない。CCIの副所長であるデイル・ビューギン氏は、透明性の高いデータに基づき、各州が柔軟な設計を維持しつつも、最終的な「成果」としての炭素価格を保証する仕組みへの移行が必要だと強調した。

連邦政府によるベンチマーク見直しの決定は、2030年代までのカナダの炭素市場のあり方を決定づける重要な節目となる。CCIは、今後も市場データやコンプライアンス行動を継続的に追跡し、制度が実効性を維持しているかを監視する体制の構築を求めている。

今回の提言は、コンプライアンスカーボンクレジット市場が直面する「価格の空洞化」という世界共通の課題に一石を投じるものだ。

名目価格が上昇しても、投資クレジットや過剰なオフセットによって実効価格が抑制されれば、高コストな炭素除去(CDR)技術への投資は停滞します。

日本でもGX-ETSが控える中、単なる「取引の成立」を超え、いかにして「排出削減に直結する価格信号」を維持し続けるか、カナダの議論は極めて重要な示唆を与えています。

参考:https://climateinstitute.ca/wp-content/uploads/2026/01/Canadian-Climate-Institute-Outcomes-Not-Optics-Canadian-carbon-markets-need-bold-reform-to-be-effective.pdf