インド政府、CO2貯留・活用に3,600億円を配分 重工業の「商用化」加速で炭素市場拡大へ

村山 大翔

村山 大翔

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インドのニルマラ・シタラマン(Nirmala Sitharaman)財務相は2月1日、2026年度の連邦予算案において、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)技術の社会実装に向け、5年間で2,000億ルピー(約3,600億円)を投じると発表した

この大規模な財政支援は、実証段階にあるCCUSプロジェクトを商用化へと移行させ、鉄鋼やセメントといった排出削減が困難な「ハード・トゥ・アベート(排出削減困難)」部門の脱炭素化を強力に推進することを目的としている。インド政府は今回の予算措置を通じて、2070年のネットゼロ目標達成と、製造業の国際競争力維持を同時に図る構えだ。

今回の予算案では、特に排出量の多い鉄鋼、セメント、電力、石油精製、化学の5セクターが重点対象に指定された

2026年度の初期予算として、電力省の下で50億ルピー(約90億円)が既に計上されており、共有輸送インフラの整備や、民間投資を呼び込むための初期段階のリスク分担メカニズムの構築に充てられる。政府は、排出を単に「避ける」だけでなく、発生した炭素を「管理する」段階へと産業戦略をシフトさせている。

背景には、欧州連合(EU)の炭素国境調整措置(CBAM)をはじめとする国際的な炭素価格メカニズムへの危機感がある。

シタラマン財務相は議会演説の中で、CCUSへの支援が、排出削減と工業生産性の維持を両立させるための戦略的バランスであると強調した。インド政府は、自国の産業を国際的な炭素関税から保護し、低炭素製品の輸出拠点としての地位を確立することを目指している。

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カーボンクレジット市場との連携も本計画の核心である。

インド政府のエネルギー効率局(BEE)は、すでに「インドカーボンクレジット取引制度(CCTS)」の対象範囲にCCUSを含める方針を固めている。詳細な算定手法が確定次第、CCUSプロジェクトから生成される排出削減量がクレジットとして取引可能になる。これにより、プロジェクトの経済性が向上し、民間資金の流入が加速することが期待されている。

加えて、予算案では化学産業の競争力強化を目的に、3つの「化学パーク」をクラスター方式で新設する計画も盛り込まれた。ここではCCUS技術の活用が前提となっており、2,000億ルピー(約3,600億円)の支援枠がこれらの拠点における技術導入を支える。インドは2025年12月に発表した「国家CCUS研究開発ロードマップ」に基づき、2050年までに年間7億5,000万トンの二酸化炭素(CO2)を回収する目標を掲げており、今回の予算はその実現に向けた大きな転換点となる。

今回のインド予算案は、単なる環境対策ではなく「貿易立国としての生存戦略」としての側面が極めて強い。

特筆すべきは、国内のカーボンクレジット市場(CCTS)とCCUSを早期に接続させようとする動きだ。

これまで経済性が課題だったCCUSに対し、公的資金によるインフラ整備とクレジット収益という「二階建て」の支援を提供することで、民間企業が投資しやすい環境を整えている。

日本企業にとっても、インドの重工業セクターにおけるCCUS技術供与や、生成されるクレジットの確保という観点で、無視できない巨大市場が形成されつつある。

参考:https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2221455&reg=3&lang=2