温室効果ガス(GHG)排出量の算定基準を策定するGHGプロトコルは2026年1月30日、農業分野の排出や二酸化炭素除去(CDR)技術を対象とした国際基準「土地部門および除去に関する標準(LSR標準)」を公表した。
本基準は、これまで企業の気候変動報告においてブラインドスポットとなっていた農地利用や、DACなどの革新的技術によるCDRをScope1およびScope3に組み込むための明確な指針を提示する。5年にわたる策定プロセスを経て、2027年1月1日より正式に適用を開始する。
世界全体の排出量の約4分の1を農業や土地利用の変化が占める中、企業にはこれまで信頼性の高い算定手法が欠如していた。新基準は、農業生産者から小売業者までバリューチェーン全体を対象とし、特にScope3におけるトレーサビリティの要件を初めて導入した。
今回の標準で特筆すべきは、炭素除去(CDR)の扱いが定義された点である。
土壌管理の改善や再造林といった自然ベースの解決策(NbS)に加え、大気直接回収(DAC)や地層貯留を伴う炭素回収・貯留(CCS)などの「技術的アプローチ」も、厳格な測定・検証・長期貯留の基準を満たせば、インベントリへの計上が可能となった。
算定にあたっては、エネルギー使用や輸送、加工に伴う排出を含むフルライフサイクル・アカウンティングが求められる。同時に、貯留されたCO2の永続性の確保や、モニタリングおよび報告における透明性の維持も厳格な条件として課されている。
WBCSDのエグゼクティブ・バイス・プレジデントであるドミニク・ウォーレイ氏は「この標準は、農業の影響をエネルギー使用と同じ厳密さで測定するための世界的なベンチマークを提供し、不確実性の多くを取り除くものだ」と述べた。
一方で、国際商業会議所(ICC)が進める「カーボン・メジャーズ(Carbon Measures)」イニシアチブなど、民間セクターの実施に特化した別の枠組みも登場している。エクソンモービルなどの企業パートナーが支持するこの取り組みは、GHGプロトコルと並行して開発されており、一部の企業がどちらの標準を採用するかという選択を迫られる可能性も示唆されている。
LSR標準は2027年1月1日に発効し、企業には今後11ヶ月間の準備期間が与えられる。森林炭素の算定については、科学的・実現可能性の観点から意見が分かれているため、今回のバージョンには含まれず、今後情報提供依頼(RFI)を通じて段階的に統合される予定である。
GHGプロトコルは2026年第2四半期までに詳細なガイダンスを公開する方針を示しており、企業はこれに基づき、ネットゼロ目標に向けた具体的な投資判断を下すことになる。
今回のLSR標準の策定は、カーボンクレジット市場、特に高品質なCDRクレジットへの投資を加速させる決定的な転換点となるだろう。
これまでは、企業がDACや大規模な土壌炭素貯留に投資しても、それを公式な排出量報告にどう反映させるかのルールが曖昧であった。
本基準の登場により、日本企業にとっても、サプライチェーン上での「インセット(自社事業内での削減・吸収)」の価値が明確化される。
一方で、ICCが推進する「Carbon Measures」との二重基準化が進めば、特にグローバルに展開する商社や食品メーカーは、どの算定基準をバックボーンに据えるかという高度な戦略的判断が求められることになるだろう。
参考:https://ghgprotocol.org/blog/release-ghg-protocol-launches-its-first-ever-global-standard-corporate-accounting-land-sector#:~:text=WASHINGTON%2C%20D.C.%2C%20January%2030%2C,removal%20technologies%20(e.g.%20direct%20air


