CDR需要喚起へ「EUバイヤーズ・クラブ」創設を提案 ネガティブ・エミッション・プラットフォーム

村山 大翔

村山 大翔

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欧州の炭素除去(CDR)推進団体であるネガティブ・エミッション・プラットフォーム(NEP)は2026年1月26日、2030年までの域内におけるCDR需要の成長を支援するための新たな提言書を公開した。

同団体でCDRファイナンス・リードを務めるアティラ・ユーセル(Atilla Yucel)氏が執筆したこの文書は、欧州域内排出量取引制度(EU ETS)への吸収量導入といった長期的な枠組みの構築を待たず、短期的かつ実効的な需要創出策を講じるよう欧州連合(EU)に求めている

現在、欧州のCDRプロジェクトは、買い手側のコスト負担や不透明なクレジット利用基準と、開発者側の投資判断に必要な長期契約(オフテイク)の欠如という「不確実性の停滞」に直面しており、今回の提言はこれを打破するための具体的道筋を示したものだ。

提言の柱の一つは、需要を集約し、デューデリジェンス(資産査定)や契約を標準化する「EUバイヤーズ・クラブ」の創設である。これにより、単独では参入が困難な中堅企業でも容易にCDR市場に参加できる環境を整備し、市場全体の流動性を高める狙いがある。

また、現在パブリックコメントを募集中の「炭素除去およびカーボンファーミング(CRCF)規則」に基づき、認証された除去量に対して1トンあたりの固定支払いを行う資金支援策も提示した。この公的資金がアンカー(中核)となり、EUイノベーション基金や産業脱炭素化銀行の支援と組み合わせることで、官民共同のブレンデッド・ファイナンスを活性化させるべきだと指摘している。

市場の信頼感を醸成するための具体的なマイルストーンとして、提言書は2026年に10億ユーロ(約1,600億円)規模のパイロットプログラムを実施することを求めている。継続的な入札ラウンドを通じて多様なCDR手法への購入支援を行い、公共のコミュニケーションを強化することで投資家の確信を深める必要があると論じた。

こうした政策的な動きに呼応するように、CDR産業の最前線では新たなプロジェクトの社会実装が進んでいる。

ハンガリーを拠点とするダニューブ・カーボン・ストレージ(Danube Carbon Storage)は1月27日、NEPへの加盟を発表した。同社は、欧州最大級のバイオリファイナリーであるパノニア・バイオ(Pannonia Bio)の酵母発酵および嫌気性消化プロセスから排出されるバイオ由来CO2を回収し、地中の塩水帯水層へ貯留する「バイオCCS(BECCS)」プロジェクトを開発中である。

同プロジェクトは年間50万トン以上のバイオ由来CO2を回収し、パイプライン輸送を経て、パンノニア盆地内の地質貯留サイトへ永久的に貯留する計画だ。ダニューブ・カーボン・ストレージは、確立された産業技術と確実な地学的貯留を組み合わせることで、欧州のボランタリーカーボンクレジット市場(VCM)に向けて信頼性の高い高品質な炭素除去クレジットを提供することを目指している。バイオメタンやバイオベース産業の拡大に伴い、このモデルを欧州全域へ展開可能なベンチマークとする構えだ。

政策と実務の「同期」が市場形成の鍵

今回のNEPの提言は、EU ETSへの吸収量組み入れという「将来の期待」だけで足元のプロジェクトが停滞している現状に対し、強力な警鐘を鳴らすものだ。特に「EUバイヤーズ・クラブ」という構想は、クレジットの品質担保と価格交渉を一本化することで、日本のJ-クレジット制度やGXリーグにおける共同購入の議論にも示唆を与えるだろう。

また、ダニューブ・カーボン・ストレージの事例は、CDRがもはや実験段階ではなく、年間50万トン規模の「インフラ事業」へ移行していることを示している。CRCF規則の最終化と2026年のパイロットプログラム実施に向けた動きは、今後数年間の国際的なCDR価格の基準値を決定づける重要な指針となるはずだ。日本企業としても、欧州の公的支援枠組みがどのように民間資金を呼び込むのか、そのレバレッジ(梃子)の掛け方を注視すべきである。

参考:https://www.negative-emissions.org/updates/danube-carbon-storage-joins-the-negative-emissions-platform