国連気候変動枠組条約(UNFCCC)事務局は2026年1月23日、パリ協定第6条に基づく国際的な炭素市場の運用に不可欠なデジタル基盤の開発に着手したと発表した。
国連開発計画(UNDP)が実施した国際競争入札の結果、オーストラリアのテクノロジー企業であるトロビオ(Trovio)とアーンスト・アンド・ヤング(EY)の連合が数年間にわたるシステム開発契約を落札した。このインフラは、国をまたぐ排出削減量の移転を記録・追跡する「第6条レジストリ」の核となり、世界の炭素市場における透明性と信頼性の確保を目指す。
今回の契約に基づき、トロビオ連合は「国際的に転移される緩和成果(ITMOs)」の取引を管理するための統合的なオンラインシステムを構築する。具体的には、政府間取引を記録する「第6条2項(Article 6.2)国際レジストリ」と、国連主導のクレジットメカニズムを管理する「第6条4項(Article 6.4)レジストリ」の二本柱が開発の焦点となる。
開発されるデジタルエコシステムは、主に以下の4つのコンポーネントで構成される。
まず、早期のパイロットテストを可能にする「最小実行可能製品(MVP)」を開発し、次いで各国政府間のITMOs移転を管理する「第6条2項レジストリ」、さらに排出削減量の発行・取消を担う「パリ協定クレジットメカニズム(第6条4項)レジストリ」を整備する。最後に、これらと各国独自のシステムを安全に接続する「インターオペラビリティ・ハブ(相互運用性ハブ)」を構築し、データの整合性を維持する。
トロビオの最高経営責任者(CEO)らは、自社のプラットフォーム「CorTenX(コーテンエックス)」が、オーストラリア政府のクリーンエネルギー規制庁(CER)ですでに採用されている実績を強調した。トロビオは主導的なサービスプロバイダーとしてインフラ構築を担い、EYは第6条メカニズムに関する専門知識と政策アドバイザリー、およびユーザーインターフェースの開発を担当する。
この取り組みは、パリ協定締約国会議(CMA)による「第6条の早期運用化」という要請に応えたものである。
これまでカーボンクレジットの二重計上(ダブルカウンティング)防止などのルール作りが先行してきたが、今回のシステム構築により、技術面での実装フェーズへ移行したことを意味する。
完成したシステムはUNFCCCがホストする環境にデプロイされ、グローバルな炭素市場の運用に求められる高度なセキュリティと技術基準に準拠する。
これにより、各国は自国の削減目標(NDC)達成に向けて、信頼性の高い国際的なクレジット取引を加速させることが可能となる。
日本市場への影響と今後の展望
今回の発表は、単なる「国連のシステム発注」以上に重い意味を持つ。日本が先行して推進してきた二国間クレジット制度(JCM)は、まさにこのパリ協定第6条2項に紐づく仕組みであり、今回開発される「国際レジストリ」がそのデータの最終的な「公式記録台帳」となるからだ。
これまで、各国のクレジット制度は「点の集合」であったが、このインターオペラビリティ・ハブの構築により、世界がひとつの巨大な炭素市場として「線」でつながる準備が整った。
日本企業にとっては、JCMで創出したクレジットがより国際的に流通しやすくなる一方、世界標準の透明性基準への対応が急務となる。
2026年を通じて進められるMVPのテスト結果は、今後のカーボンクレジットの流動性を占う極めて重要なマイルストーンになるだろう。
参考:https://www.unfccc.int/news/development-of-paris-agreement-article-6-registry-infrastructure-begins


