EU・インドが歴史的FTAに合意も 炭素国境調整の免除は見送り

村山 大翔

村山 大翔

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欧州連合(EU)とインド政府は2026年1月27日、ニューデリーで開催された第16回EU・インド首脳会議において、自由貿易協定(FTA)の交渉妥結を共同発表した。

世界第2位と第4位の経済圏による巨大な自由貿易圏が誕生する一方、インド側が強く求めていた「炭素国境調整措置(CBAM)」の適用免除は盛り込まれず、炭素関税の枠組みは維持された

両者は今後、5億ユーロ(約815億円)規模の脱炭素支援を通じて、インド産業界のクリーン化を加速させることで合意した。

今回の合意において、EU側はインドに対するCBAMの義務免除や特別な優遇措置を否定した。これにより、2026年1月1日から本格導入された同制度に基づき、インドからEUへ輸出される鉄鋼、アルミニウム、セメント、肥料などの炭素集約型製品には、引き続き炭素価格に相応するコストが課されることとなる。

一方で、インドは「最恵国待遇(MFN)」条項を確保した。

将来的にEUが他の第三国に対してCBAMに関する柔軟性や譲歩を認めた場合、その条件が自動的にインドの輸出業者にも適用される仕組みだ。インド商工省(Ministry of Commerce and Industry)のピユシュ・ゴヤル(Piyush Goyal)大臣は「今回のFTAは単なる貿易協定を超えた包括的な戦略的パートナーシップであり、インド製品の99%以上に対して前例のない市場アクセスを確保した」と成果を強調した。

CBAMによる輸出競争力低下を懸念するインドに対し、EUは産業界のクリーン移行を支援する包括的なパッケージを提示した。今後2年間で5億ユーロ(約815億円)の資金援助を行うほか、2026年上半期中に「気候アクションと持続可能な貿易協力のための専用プラットフォーム」を立ち上げる予定だ。

欧州委員会(European Commission)のウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)委員長は「世界最大の民主主義国同士のパートナーシップを深める歴史的な日だ。20億人の自由貿易圏を創出し、ルールに基づいた協力が大きな成果を生むという信号を世界に送った」と述べ、経済成長と気候変動対策の両立に自信を見せた。

FTAの全体像としては、EUからインドへの輸出商品の約96.6%で関税が撤廃または削減される。これにより、欧州企業は年間約40億ユーロ(約6,520億円)の関税負担が軽減される見込みだ。特に自動車、ワイン、化学品などの分野で大幅な市場開放が進む。

また、知的財産権(IP)の保護も強化され、著作権や商標、営業秘密などの分野で国際基準に近い法的枠組みが整備される。インド側も、ITサービスや専門職の移動(モビリティ)に関してEU市場へのアクセス拡大を勝ち取っており、双方の経済的利益の最大化を狙う。

今回の合意文書は今後、法的確認とEU公用語への翻訳作業を経て、欧州理事会の承認および欧州議会の同意、さらにはインド側での批准手続きへと進む。順調に進めば、2026年内にも協定の一部または全部が発効する見通しだ。

「炭素価格」が貿易の新たな主権に

今回のEU・インドFTAは、今後の国際貿易において「炭素コストの免除は原則として認められない」という強力な前例を作ったといえる。インドは当初、途上国への配慮としてCBAMの適用除外を求めていたが、EUは「環境ルールの公平性」を盾にこれを拒絶した。

注目すべきは、インドが「免除」の代わりに「MFN(最恵国待遇)」と「815億円の技術支援」を引き出した点だ。これは、インドが自国の重工業を脱炭素化させるための軍資金をEUから調達しつつ、他国が有利な条件を得た際には即座に追随できる権利を確保したことを意味する。

日本の事業者にとっての教訓は、カーボンクレジットや炭素除去(CDR)技術の導入が、もはや環境活動ではなく「輸出競争力の維持」そのものに直結するという事実だ。インドの鉄鋼メーカーは今後、この支援金を活用してCCS(炭素回収・貯留)や高品質なカーボンクレジットによる相殺を急ぐだろう。

CBAMの本格運用が始まった今、価格競争力は「人件費」や「材料費」だけでなく「製品の炭素含有量」によって決定される時代に突入した。

参考:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_26_184

参考:https://www.pib.gov.in/PressReleasePage.aspx?PRID=2219065&reg=3&lang=2