INPEXは2026年1月20日、オーストラリア北部沖合で計画中の「ボナパルト炭素回収・貯留(CCS)プロジェクト」について、連邦政府に提出していた環境計画案を一時撤回していたとロイター通信が報じた。
これは同国の環境保護・生物多様性保全(EPBC)法の大幅な改正が2月に予定されていることを受けた措置であり、新制度の施行後に速やかに再申請を行う方針だ。同プロジェクトは年間最大1,000万トンの二酸化炭素(CO2)貯留を目指す豪州最大級の炭素除去拠点として、日本のエネルギー安全保障と脱炭素戦略の鍵を握っている。
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本プロジェクトは、INPEXが53%の権益を保有するオペレーターを務め、フランスのトタルエナジーズ(TotalEnergies SE)および豪ウッドサイド・エナジー(Woodside Energy)と共同で推進している。ダーウィン沖約250キロメートルの海域において、イクシスLNG(液化天然ガス)事業から排出されるCO2を回収し、地下に圧入・貯留する計画だ。2028年の着工、2031年の操業開始を目指しており、総貯留容量は3億トンに達すると試算されている。
オーストラリア政府は2025年11月、環境規制の合理化とコンプライアンス強化を目的とした環境法改正案を可決した。
INPEXの広報担当者はロイター通信に対し「開発への関与は揺るぎないものであり、法改正の詳細が確定次第、リファラル(審査要請)を再提出する」と述べた。同社はすでに北部準州政府に対しては、陸上インフラ部分に関する個別の申請を済ませており、法的な不確実性を排除した上で連邦政府の最終承認を取り付ける構えだ。
今回の手続き上の停滞は、豪州における大規模CCS事業の規制環境がいかに複雑であるかを浮き彫りにしている。
豪州ではサントス(Santos Ltd)のムーンバCCS計画など、すでに稼働中の陸上プロジェクトは存在するものの、大規模な沖合貯留については依然として技術的・経済的懸念が根強い。米シェブロン(Chevron Corp)が主導するゴーゴンCCSプロジェクトでは、30億ドル(約4,500億円)以上の巨額投資にもかかわらず、直近の貯留実績が設計容量を大幅に下回る約130万トンに留まっていることが批判の対象となっている。
INPEXにとって本事業の成否は、豪州の排出削減義務「セーフガード・メカニズム」への対応に直結する。
2024年6月期における同社の排出実績は670万トンであり、規制基準値の直下に位置している。将来的には自社排出分だけでなく、JERAや中部電力など日本企業との協業を通じて、日本国内で回収したCO2を豪州へ輸送・貯留する「日豪CCSバリューチェーン」の構築も視野に入れている。
2026年2月の新法運用開始に伴い、審査がどのように加速するかが今後の焦点となる。
今回の撤回は単なる遅延ではなく、豪州の新しい環境規制に完璧に適合させるための「戦略的リセット」と見るべきだ。
現在、日本企業が主導する海外CCS開発は、現地の規制当局との調整が最大のボトルネックとなっている。特に豪州では環境団体の監視が厳しく、ゴーゴンCCSの不振が「CCSはグリーンウォッシュである」という論調に拍車をかけている。
INPEXが再申請を通じて規制の透明性を確保できるかは、今後の日本発のCDRビジネスが国際的な信頼を得られるかどうかの試金石になるだろう。
参考:https://www.inpex.com/english/business/project/bonaparte.html
参考:https://www.reuters.com/sustainability/inpex-resubmit-environmental-plan-large-ccs-project-off-australia-2026-01-20/


