英国の認証機関アイソメトリック(Isometric)は1月20日、カナダのスタートアップであるカーボンラン(CarbonRun)がノルウェー南部のクヴィナ川で実施したプロジェクトに対し、世界初となる河川アルカリ度向上(RAE)によるCDRクレジットを発行した。
今回発行されたのは76トン分のカーボンクレジットで、米グーグル(Google)、ストライプ(Stripe)やショッピファイ(Shopify)などが主導する共同購入枠組みフロンティア(Frontier)へと提供される。この成果は、これまで未開拓だった河川を活用した炭素除去(CDR)の商用化に向けた大きな転換点となる。
河川アルカリ度向上(RAE)は、細かく砕いた石灰石などのアルカリ性物質を川に投入し、水中の二酸化炭素(CO2)と反応させて安定した重炭酸イオンへと変化させる技術である。このプロセスにより、CO2が大気中に放出されるのを防ぎ、最終的には海洋へ運ばれ、数万年にわたって安全に貯留される。
本手法は、酸性雨対策として数十年前から行われてきた「河川への石灰散布」という既存技術を応用したものである。河川は陸域から海へ炭素を運ぶ主要な経路だが、その過程で毎年最大25億トンのCO2を大気中に放出している。RAEはこの自然のサイクルに介入し、地球本来の風化プロセスを加速させることで、効率的な炭素除去を可能にする。
カーボンランはフロンティアとの間で、2025年から2029年の間に計55,442トンのCO2を除去する総額2,540万ドル(約38億1,000万円)のオフテイク契約(先払い購入契約)を締結している。今回のクレジット発行は、この大規模契約に基づく最初の成果となる。
信頼性の担保には、アイソメトリックが策定した世界初の「RAEプロトコル」が用いられた。この枠組みでは、河川の流量や水質の直接測定に加え、動的なベースライン設定を組み合わせることで、除去量を保守的かつ正確に算出する。プロジェクトの妥当性確認と検証は、第三者機関の350ソリューションズ(350Solutions)が担当した。
フロンティアのデプロイメント責任者であるハンナ・ベビントン・バロリ氏は「河川への石灰散布による炭素除去は、低コストで拡張性が高く、測定も比較的容易という稀有な組み合わせだ。この未開発の領域における最初の認証クレジットは重要な一歩となる」と述べた。
カーボンランの創設者兼最高科学責任者(CSO)であるシャノン・スターリング(Shannon Sterling)博士は、今回の発行について次のように指摘した。
「厳格な科学と継続的なモニタリング、そして責任ある展開が何を達成できるかを証明した。河川は温暖化や酸性化などの気候ストレスにさらされているが、RAEは炭素除去を実現しながら、同時にこれらの河川システムを強化する手段になる」
今回のクヴィナ川でのプロジェクトは、現地の当局や科学パートナーと密接に連携し、生態系の安全性を確認しながら進められている。今後は、アイソメトリックのレジストリで公開される透明性の高いデータを基に、世界各地の河川での展開が期待される。
今回のニュースは、森林吸収や工場排煙の回収(DAC)に注目が集まりがちなCDR市場において、「水域」という広大なフィールドが商用フェーズに入ったことを意味する。
特筆すべきは、全くの新技術ではなく、既存の酸性雨対策(石灰散布)をカーボンクレジットという新しい経済価値に結びつけた点だ。
日本の文脈で言えば、日本も河川が多く、酸性河川の適正化などはなじみのあるテーマだ。
しかし、河川への物質投入は生態系への影響評価が極めて厳しく、法規制のハードルが高いのが現状だ。今回のカーボンランの事例は、アイソメトリックのような厳格な第三者認証と、フロンティアのような「質の高いクレジットなら高値で買う」という先行バイヤーの存在がいかに重要かを物語っている。
今後、日本企業が水域CDRに参入する際、この「MRV(計測・報告・検証)の透明性」をどう担保するかが、世界市場で戦うための試金石となるだろう。
参考:https://isometric.com/writing-articles/the-worlds-first-river-alkalinity-enhancement-credits


