ベトナム政府は2026年1月、国内炭素市場の運用を具体化する新たな政令を発行した。同国は2050年のネットゼロを掲げており、今回の政令はその達成に向けた法的・運用面の根幹となる。
2026後半から2028年にかけて試験運用を実施し、2028年からは排出枠管理を義務化、2029年には全国規模での本格的な市場運用を開始する計画だ。
今回の決定により、ハノイ証券取引所(HNX)が炭素取引プラットフォームの開発と運営を担うことが決まった。また、カーボンクレジットや排出枠の登録、預託、決済については、ベトナム証券保管振替機構(VSDC)が監督を務める。全体的な調整や排出量インベントリの管理は、2025年に環境省と農業省が統合して誕生した農業環境省(MAE)が主導する。
市場で取引されるのは、温室効果ガス(GHG)排出枠と認証済み炭素クレジットの2種類だ。
2025年から2026年の試験フェーズでは、発電、鉄鋼、セメント部門の主要排出事業者約150社に対し、排出強度基準に基づいた無償の排出枠が割り当てられる。企業は自社のコンプライアンス義務を果たす際、合計義務量の最大30%までカーボンクレジットをオフセットとして使用できる。これは当初検討されていた制限値から大幅に引き上げられた数値であり、市場の流動性を高める狙いがある。
チャン・ホン・ハ副首相は2025年12月24日に開催された閣議において、「排出枠の割り当てはベトナムにとって初の試みである」と述べた。副首相は、試験フェーズを通じて企業が排出抑制メカニズムに慣れる必要があるとしつつ、形式的なものにせず、明確な法的規制の下で厳格に実施すべきだと強調した。
同国は、2030年までにパリ協定第6条に基づく国際的な炭素市場との統合を見据えている。特に、同国の強みである林業や農業分野からの高品質なカーボンクレジット創出を優先する方針だ。農業環境省(MAE)は、セメントや鉄鋼といった特定分野の総排出枠を決定し、関連省庁や業界団体と連携して参加企業の選定と枠の割り当てを行う。
チャン・ホン・ハ副首相は、「カーボンクレジットと排出枠の取引市場が形成され、明確な売買メカニズムが確立されて初めて、企業には排出削減への真の動機が生まれる」と指摘した。
政府は2027年までにメカニズムと政策の改良を進め、2028年からは全セクターの企業を対象とした義務的な管理体制へと移行する。違反やデータ不正に対する制裁措置の整備も並行して進める方針であり、今後、排出削減を促すための経済的手段がさらに強化される見通しだ。
ベトナムの炭素市場がいよいよ「試験」から「義務化」へと舵を切った。
注目すべきは、オフセット上限が30%と比較的寛容に設定された点だ。これは、国内の森林保全や農業由来のクレジットプロジェクトを強力に後押しするメッセージと言える。日
本企業にとっては、二国間クレジット制度(JCM)を通じた協力だけでなく、ベトナム国内市場をターゲットにしたCDR(炭素除去)技術やプロジェクト投資のチャンスが拡大するだろう。
今後は2027年までに整備される制裁措置の詳細が、市場の信頼性を左右する鍵となる。


