インド政府は2025年3月28日、インド炭素市場(ICM:Indian Carbon Market)におけるオフセット・メカニズムの詳細な実施手順と、8つの排出削減算出手法(メソドロジー)を承認した。
これに呼応するように、デリー首都圏政府もグリーンプロジェクトから生じる排出削減量を収益化する独自の枠組みを閣議決定した。中央政府による制度基盤の整備と地方自治体による事業化が同時に進展したことで、インド国内のカーボンクレジット創出プロジェクトは、従来の構想段階から実務的な運用フェーズへと移行する。
インド炭素市場国家運営委員会(NSCISCM:National Steering Committee for Indian Carbon Market)が主導する今回の制度構築は、2023年6月に通知されたカーボンクレジット取引スキームを具体化するものだ。
特筆すべきは、排出削減義務を負わない民間企業や団体が、自発的な気候変動対策プロジェクトを通じてカーボンクレジットを取得できる「オフセット・メカニズム」が正式に稼働した点にある。これにより、これまで義務的市場の枠外にあったセクターからの投資を呼び込む狙いがある。
中央政府が承認した8つの手法には、再生可能エネルギー(水力および揚水発電を含む)、グリーン水素の製造、産業用エネルギー効率の改善、埋立地メタンの回収、マングローブの植林・再生などが含まれる。これらの分野は、インドが掲げる排出強度削減目標の達成に向けた重点領域として位置づけられており、国内外の投資家にとって明確な事業指針となる。
一方、デリー首都圏政府が導入した「カーボンクレジット収益化枠組み」は、都市レベルでの実践的なモデルとして注目される。この枠組みでは、電気バスの導入、太陽光エネルギーの普及、都市林業、廃棄物発電、下水再利用などの事業から生じる温室効果ガス(GHG)削減量を科学的に測定・検証し、取引可能なクレジットに変換する。
デリー首都圏政府環境・森林・野生動物局(Department of Environment, Forests and Wildlife)が主幹事となり、国際的な監査基準を満たす監視・報告・検証(MRV)体制を構築する。
デリーのモデルは、専門機関を公募し、収益分配(レベニューシェア)方式で運営することで、政府の初期費用負担をゼロにする戦略を採用した。生成されたクレジットは、インド国内市場だけでなく、ベラ(Verra)やゴールド・スタンダード(Gold Standard)といった国際的な認証プラットフォームへの登録も視野に入れており、排出オフセットを目指すグローバル企業への販売を想定している。
収益は州の連結基金に積み立てられ、さらなる環境対策や公共福祉事業に再投資される計画だ。インドではすでにインドールやメガラヤ州などの地方自治体が気候変動対策の収益化に先行しており、デリーの参入は都市部におけるサステナビリティ・モデルの確立を加速させる。インド政府は今後、承認された8つの手法に基づき、プロジェクトの登録受付とクレジットの発行プロセスを順次開始する予定である。
今回のインドの動きは、単なる「指針の発表」ではなく、具体的な8つの算定手法を確定させたという点で、市場の信頼性を一段階引き上げるマイルストーンとなります。特にデリーが採用した「レベニューシェア方式」は、予算制約のある自治体がカーボンクレジット事業に参入するための現実的な解であり、今後他のアジア諸国の都市でも模倣される可能性が高いでしょう。
日本のクリーンテック企業や投資家にとっては、インドが承認した「8つの手法」に自社の技術がどう適合するかを精査する好機です。特にグリーン水素やマングローブ再生などの分野では、日本の知見がインドの国内制度と合致する形でプロジェクト化できる余地が広がっています。
参考:https://www.pib.gov.in/PressReleseDetailm.aspx?PRID=2116421®=3&lang=2


