ネイチャーベースのカーボンクレジット開発を手掛けるグリーンカーボン(Green Carbon)は、エネルギー大手のシェル・イースタン・トレーディング(Shell Eastern Trading (Pte) Ltd.)と、フィリピン・ミンドロ島の水田におけるメタン排出削減プロジェクトで協働体制を構築した。
両社は二国間クレジット制度(JCM)を活用し、同国農業分野での排出削減手法に基づいた高品質なクレジット創出を推進する。2025年2月3日にフィリピン・日本両政府の合同委員会で承認された最新の方法論を適用し、大規模な気候変動対策のモデル確立を目指す。
フィリピンにおいて農業分野は温室効果ガス(GHG)排出量の約25%にあたる約5,400万トンを占めており、その大半が水稲栽培に起因している。
本プロジェクトでは、ミンドロ島の5万ヘクタールを対象に間断かんがい(AWD)技術を導入する。AWDは栽培期間中に水位を適切に管理して乾湿を繰り返すことで、連続湛水時に発生するメタンを抑制する手法である。フィリピン米研究所(PhilRice)のデータによれば、この技術の導入により約30%のメタン排出削減が見込まれている。
本プロジェクトの基盤となるのは、アジア開発銀行(ADB)と日本の農林水産省(MAFF)の協力により開発されたJCM方法論「水田における水管理によるメタン排出削減」(PH_AM004)である。グリーンカーボンは技術設計と現地農家との連携を主導し、シェルは事業拡大に向けた投資と市場アクセスの促進を担う。
創出されたクレジットは、日本の「成長志向型カーボンプライシング」に基づくGX-ETSにおけるオフセット手段としての活用が想定されている。
グリーンカーボンは、2023年度に日本国内で最大級となる約6,220トンの水田J-クレジット認証を取得しており、2024年度には約4万ヘクタール(約8万トン)への拡大を計画している。同社の代表である大北潤氏は、フィリピンでの取り組みについて「最新のJCM方法論に基づき、フィリピン農業と日本市場を直結させることで、長期的な経済性と脱炭素化を両立させる」との方針を示している。
今後はミンドロ島での実施を皮切りに、東南アジア全域での農業由来クレジットのパイプライン構築を加速させる。両社はJCMクレジットの早期発行に向けたロードマップを策定しており、次回の合同委員会での進捗報告が注目される。
今回のグリーンカーボンとシェルの提携は、日本のJCMが「エネルギー・産業主導」から「ネイチャーベース・農業主導」へとパラダイムシフトしている象徴的な事例である。
特筆すべきは、これまで算定が困難とされてきた小規模農家のメタン削減を、最新のJCM方法論と日本のGX-ETSを接続することで「金融商品」として成立させた点にある。これは、ボランタリークレジット市場が透明性の課題に直面する中で、政府間合意に基づくJCMの信頼性が再評価されている流れを汲んでいる。
今後、同様の手法がベトナムやタイなどの米どころへ波及すれば、アジア全体の農業脱炭素化において日本企業が主導権を握る大きなチャンスとなるだろう。


