補助金のみの脱炭素策は「限界」 米大学がカーボンプライシングの不可欠性を指摘

村山 大翔

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カリフォルニア大学サンディエゴ校とプリンストン大学の研究チームは1月5日、クリーンエネルギーへの補助金だけでは長期的な温室効果ガス(GHG)排出削減は達成できず、カーボンプライシングが不可欠であるとする調査結果を学術誌ネイチャー・クライメート・チェンジで発表した。

本研究は、米国の全50州を対象に2050年までのエネルギーシステムをモデル化し、補助金という「飴」と、排出への課税という「鞭」の組み合わせが脱炭素化に与える影響を分析したものである。

研究チームは、電気自動車(EV)や再生可能エネルギー、クリーン製造業への安定した補助金が、短期的にはコスト低減と普及を加速させ、排出量を急激に削減できることを認めている。しかし、長期的な目標達成においては、化石燃料の利用コストを段階的に引き上げるカーボンプライシングが導入されない限り、排出削減の動きは停滞すると結論付けた。政策の継続性も重要であり、補助金の遅延や撤回が繰り返されると投資が停滞し、将来的な削減コストが大幅に上昇するという。

カリフォルニア大学の国際政策・戦略大学院教授であるデビッド・ビクター氏は、これまでの経済モデルは理想的な効率性を追求するのみで、政治的な実現可能性を考慮していなかったと指摘した。同氏は「この研究は、政府が実際にどのように行動し、政治的な波を乗り越えて持続可能な戦略を策定できるかを橋渡しするものだ」と述べ、政策の一貫性が2050年までにエネルギー関連の炭素排出量を約80%削減する鍵になると強調した。

米国の気候変動政策は現在、不確実な局面を迎えている。インフレ抑制法(IRA)に基づくクリーンエネルギー税額控除が政治的圧力にさらされる一方で、連邦レベルの炭素税導入は見送られたままである。これは、排出量取引制度を厳格化させる欧州や、補助金とカーボンプライシングの両面を拡大させている中国とは対照的な状況にある。

国際エネルギー機関(IEA)などの国際機関も、化石燃料の利用を抑制する措置なしにはネットゼロの達成は不可能だと警告しており、今回の研究結果はこれに理論的裏付けを与えた形だ。

世界の動向:異なるアプローチの激突

研究の主著者であるプリンストン大学のフイリン・ルオ氏らは、いつ、どのような政策が機能するかを理解することが、世界の気候目標を達成するための鍵であると結論づけている。米国における政策の「飴」と「鞭」の実験は、日本を含む他国のエネルギー転換戦略にとっても重要な試金石となるだろう。

本研究は、カーボンクレジット市場やCDR分野に関わるプレイヤーにとって、極めて重要な示唆を含んでいる。現在、米国や日本を含む多くの国では、補助金や税制優遇といった「飴」によって初期の技術実装を支えているが、これだけでは「自律的な市場」の形成には限界がある。

カーボンクレジット、特に高価な物理的CDRの需要を永続的に支えるのは、最終的には排出に対するコスト負担、つまり「鞭」としてのカーボンプライシングである。補助金頼みの事業環境は政治情勢によって不安定化しやすいが、明確な価格付け制度が確立されれば、クレジットは「コスト回避の手段」として企業の投資判断に組み込まれる。

日本企業は、現在のボランタリーな取り組みから一歩進み、将来的なカーボンプライシングの義務化を前提とした、より強固なクレジット調達・開発戦略を構築すべき時期に来ている。

参考:https://phys.org/news/2025-12-incentives-penalties-key-carbon-emissions.html