アフリカ炭素市場の主権を政府へ 「EACC」がウガンダで大規模CDR事業を開始

村山 大翔

村山 大翔

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アラブ首長国連邦(UAE)とウガンダのカンパラで12月23日、政府主導のカーボンクレジット開発を専門とする新組織「イースト・アフリカン・カーボン(EACC: East African Carbon Company)」が正式に発足した。同社はウガンダ政府と提携し、同国内の公有地約71万4,000ヘクタールで森林保護や生態系回復などの自然由来プロジェクトを展開する。不透明な取引が課題となっていたアフリカ市場において、仲介者ではなく政府が主導権を握ることで、高品質な炭素除去(CDR)クレジットの創出と地域経済の活性化を目指す。

EACCの設立は、アフリカ全土で炭素市場への規制が強まる中で行われた。これまでアフリカのプロジェクトは、不透明な契約や利益配分の不均衡が国際的に批判されるケースが目立っていた。これを受け、ケニアやジンバブエ、タンザニアなどの近隣諸国は相次いで規制を強化し、収益の管理権や承認プロセスを国家の統制下に置く動きを見せている。EACCはこの流れを汲み、各国の国内法やパリ協定第6条(二国間クレジット等)に準拠したプロジェクトの設計を直接支援する。

ウガンダの水・環境省(Ministry of Water and Environment)との提携では、公有地での森林保護と生態系回復を軸とする。事前調査によると、対象となる約71万4,000ヘクタールの土地は、40年間で最大1,850万トンの二酸化炭素(CO2)を吸収・固定できる潜在能力を持つ。これはウガンダの年間排出量である約4,000万トンの半分近くに相当し、同国の国家決定貢献(NDC)達成に大きく寄与する規模だ。

地域経済への波及効果も具体的だ。プロジェクトの初期段階で約5,000人の農家を訓練し、1,000人以上の直接雇用を創出する計画である。炭素ファイナンスを生計向上に直結させることで、経済的選択肢が限られた農村部での持続可能な開発モデルを提示する。EACCは、中央政府および地方政府のチームをプロジェクトの設計段階から組み込み、ウガンダの気候変動メカニズム規則に則った監視・報告体制を構築している。

EACCの最高投資責任者(CIO)を務めるナヴィード・タリク(Naveed Tariq)氏は、「国家のリーダーシップと、長期的な気候目標、経済発展、そして投資家の期待を一致させるモデルだ」と述べた。同氏は、欧州やアジアの買い手がより高い透明性と法的根拠を求めている現状を指摘し、土地所有権や検証体制が曖昧なクレジットは今後、市場で淘汰されるとの認識を示した。

現在、アフリカは世界の自然由来の炭素削減ポテンシャルの多くを保持している。しかし、世界のボランタリー炭素市場(VCM)からアフリカに流入する資金は、全体の5%未満に留まっている。EACCの参入は、政府主導のガバナンスによってこの格差を是正し、中東などの長期投資家から信頼性の高い「ネイチャー・ポジティブ資産」として資金を呼び込む狙いがある。ウガンダ政府は今後、数カ月以内に具体的なプロジェクトの実施計画を公表する予定だ。

これまでアフリカのカーボンクレジット事業は、外資系開発事業者が主導し、地元政府や住民への還元が不十分な「グリーン・グラビング(環境を名目にした土地収奪)」のリスクが常に指摘されてきた。

今回設立されたEACCが「政府主導」を強調している点は、単なるビジネスモデルの変化ではなく、クレジットの所有権と利益を国家が管理する「炭素主権(Carbon Sovereignty)」への明確なシフトを象徴している。

特にパリ協定第6条の運用が世界的に本格化する2025年以降、二重計上を防ぐための「相応の調整(Corresponding Adjustment)」には政府の承認が不可欠となる。

EACCのような政府直結型プラットフォームの台頭は、将来的に日本企業がアフリカから高品質なクレジットを調達する際、最も信頼できる窓口となる可能性がある。

今後は、ウガンダに続きどの国がこのモデルを採用するかが、アフリカ炭素市場の勢力図を左右する焦点となるだろう。

参考:https://africasustainabilitymatters.com/east-african-carbon-company-launches-to-develop-government-led-nature-based-carbon-projects-in-africa/