米カンザス州初のCO2地下貯留プロジェクト始動へ エタノール工場由来の排出削減に向けEPAが許可証案を交付

村山 大翔

村山 大翔

「米カンザス州初のCO2地下貯留プロジェクト始動へ エタノール工場由来の排出削減に向けEPAが許可証案を交付」のアイキャッチ画像

米環境保護庁(EPA)は2025年12月23日、カンザス州初となる二酸化炭素(CO2)の地下貯留用「クラスVI(Class VI)」ウェル(圧入井)の許可証案を交付した。

対象となるのは、ピュアフィールド・イングリーディエンツ(PureField Ingredients, LLC)の関連会社であるピュアフィールド・カーボン・キャプチャー(PureField Carbon Capture, LLC)が推進するプロジェクトである。同プロジェクトは、エタノール製造の発酵過程で発生するCO2を年間約200万トン回収し、地中深くの貯留層に永続的に閉じ込めることを目指している 。

今回の許可は、カンザス州ラッセル郡に位置する施設において、炭素回収・貯留(CCS)を実施するための法的枠組みを提示するものだ。回収されたCO2は、液体、超臨界流体、またはガスの状態で、地下約3,448フィートから3,606フィート(約1,051メートルから1,100メートル)の深さにある「アーバックル・グループ(Arbuckle Group)」と呼ばれる地層に圧入される。EPAは、上部に位置する「ヘブナー頁岩(Heebner Shale)」などが遮蔽層(コンファイニング・ゾーン)として機能し、飲料水源への影響を防ぐ構造であることを確認している。

本プロジェクトは、バイオ燃料由来のCO2を回収・貯留する「BECCS(バイオエネルギー炭素回収・貯留)」の先駆けとして、高品質な炭素除去(CDR)クレジットの創出に寄与する可能性がある。EPAは2026年1月22日にラッセル市内のホテルで情報提供セッションおよび公聴会を開催し、地域住民や関係者からの意見を直接聴取する予定だ。一般からの意見公募は2026年2月1日まで受け付けられ、最終的な承認が得られた後、事業者は圧入井の建設や、本格稼働に向けた事前試験に着手できる。

許可証には、圧入圧力の制限や自動遮断システムの設置、さらには最低50年間にわたる閉鎖後のサイトケア(PISC)など、厳格な監視・管理体制が盛り込まれている。特に、地下水の水質監視やCO2プ plumes(広がり)のトラッキングは、プロジェクトの安全性と炭素貯留の永続性を証明する上で不可欠な要素となる。カンザス州におけるこの第1号案件の成否は、今後、米国中西部で相次ぐエタノール由来のCCS事業の試金石となるとみられる。

今回のEPAによる許可証案の交付は、カンザス州が全米の炭素除去(CDR)市場における主要なプレーヤーへと名乗りを上げたことを意味する。特筆すべきは、本案件がエタノール由来のCO2を対象としている点だ。

バイオ燃焼由来の炭素を地下に埋める行為は、理論上「大気中の炭素を純減させる」BECCSに該当し、現在、テック企業などが高単価で購入している高品質クレジットの供給源となり得る。

日本企業にとっても、北米のこうしたインフラ型CCSプロジェクトへの参画や、そこから創出されるクレジットの確保は、脱炭素戦略における現実的な選択肢として重要度を増していくだろう。

今後の焦点は、1月に行われる公聴会での地域住民の受容性と、それを受けたEPAの最終判断のスピードに移る。

参考:https://downloads.regulations.gov/EPA-R07-OW-2025-3852-0001/content.pdf