米ニューメキシコ州政府は2025年12月24日までに、最新の気候行動計画(CAP:Climate Action Plan)を公表し、排出量取引制度(キャップ・アンド・インベスト)の導入を主要な市場メカニズムの選択肢として検討していることを明らかにした。
同州は2030年までに温室効果ガス(GHG)排出量を2005年比で45.4%削減し、今世紀半ばまでに実質ゼロ(ネットゼロ)を達成する目標を掲げている。法制化を経て2030年の制度開始を目指す方針で、炭素価格の導入により州内の脱炭素化を加速させる。

分析結果によると、この新制度の導入コストは9,000万ドル(約135億円)と見積もられており、年間の運営費用は360万ドル(約5億4,000万円)と算出された。2050年までに3億1,500万トン以上の二酸化炭素(CO2)等量を削減する見込みで、1トンあたりの削減コストは0.29ドル(約43.5円)と、極めて高い費用対効果が期待されている。
制度の実現には今後、州議会での法制化が必要となる。仮に2026年から準備作業を開始したとしても、排出枠の初回上限設定は2030年までずれ込む見通しである。制度によって得られる収益は、産業部門や電力部門における個別の規制に代わる措置として、気候行動計画(CAP)が定める全セクターの気候変動対策に充てられる予定だ。
全米の他州では、同様の制度運用において明暗が分かれている。ニューヨーク州キャップ・アンド・インベスト(NYCI:New York Cap-and-Invest)は、知事による制度の中断や裁判所による規則策定の命令、さらには州の上訴などにより、2025年を通じて大幅な遅延に直面した。裁判所は2026年2月6日までに完全な規制案を策定するよう命じている。
一方で、ワシントン州の制度は廃止を求める住民投票を乗り越え、現在も継続されている。ボブ・ファーガソン知事は2025年12月、制度収益のうち約5億7,000万ドル(約855億円)を、低所得世帯向けの税額控除や州予算の穴埋めに転用する予算案を提示した。先行するカリフォルニア州は、カーボンニュートラル目標に合わせ、既存の制度を2045年まで延長することを決定している。
今回のニューメキシコ州の動きは、周辺州の動向を注視しながら、市場機能を活用した確実な削減と経済性の両立を模索するものといえる。
ニューメキシコ州が示した「1トンあたり0.29ドル」という極めて低い削減コスト試算は、同州が化石燃料産業を抱えつつも、市場メカニズムによる効率的な排出削減に強い自信を持っていることの表れだ。
先行するワシントン州が収益を一般財源化しようとする動きを見せる中で、ニューメキシコ州が「全セクターの気候対策への再投資」を強調している点は、カーボンクレジット創出や炭素除去(CDR)技術への新たな投資呼び込みという観点からも注目に値する。法
制化の動向次第では、米国西部における新たな巨大炭素市場のハブとなる可能性があるだろう。


