米財務省と内国歳入庁(IRS:Internal Revenue Service)は2025年12月19日、二酸化炭素(CO2)回収・貯留(CCS)を支援する「Section 45Q」税額控除の運用を円滑化するため、新たな指針「告示2026-01」を発表した。
この指針は、米環境保護局(EPA:Environmental Protection Agency)の報告システムにおける規制上の不確実性を背景に、2025年中にCO2回収・貯留を実施する企業に対し、一時的なコンプライアンスの経路となる「セーフハーバー(免責条項)」を提供するものである。
2025年初頭に成立した大規模な税・予算パッケージである「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル(OBBB:One, Big, Beautiful Bill)」による制度拡充を受け、炭素管理政策の重要性が高まる中で、プロジェクトの継続性を担保する狙いがある。

今回の措置の核心は、EPAの温室効果ガス報告システムに関連するコンセンサス案である。現行の規定では、45Q控除を受ける企業は、EPAの「温室効果ガス報告プログラム(GHGRP:Greenhouse Gas Reporting Program)」に基づき、電子プラットフォームを通じた報告を行うことが義務付けられている。
しかし、財務省とIRSは、EPAの報告ツールの稼働状況に関する不透明さが、新規プロジェクトの稼働が本格化する時期と重なり、手続き上のボトルネックを生じさせる可能性があることを認めた。
EPAが2025年度のデータ用電子報告システムを2026年6月10日までに立ち上げられない場合、納税者は年次報告書を作成し、代わりに適格な独立技術者または地質学者に提出することが許可される。
この第三者の専門家は、CCS活動が2025年末時点で有効な温室効果ガス報告要件に準拠していることを証明しなければならない。業界団体のカーボン・キャプチャー・コアリション(CCC:Carbon Capture Coalition)は、財務省とIRSが2025課税年度に向けて迅速にセーフハーバーを提示したことを歓迎すると述べた。一方で同団体は、石油・ガス田を含むすべてのタイプの永久的な地学的貯留を行う納税者がこの指針を利用できるようにし、モニタリング要件の混乱を避けることが極めて重要であると指摘した。
このセーフハーバーは、地層への適切な処分を目的としたCO2のみに適用され、石油・ガスの増進回収(EOR)に利用されるものは対象外となる。財務省は、測定・検証基準に関する詳細な規制が策定されるまでの間、納税者は本告知に依拠できるとしている。この動きは、数十億ドル(数千億円)規模の先行投資と長期の開発期間を要するCCSプロジェクトにおいて、規制の透明性を不可欠と考える開発者や投資家から歓迎される見通しだ。
一方で、45Qプログラム自体に対する監視の目は厳しさを増している。政策団体のタックスペイヤーズ・フォー・コモン・センス(Taxpayers for Common Sense)とハートランド研究所(Heartland Institute)はIRSに対し、税額控除の監視強化を求めた。両団体は、検証が不十分であれば、気候変動への実効性が証明されないまま、納税者の負担が増大する恐れがあると警告した。過去の監査では、少数の納税者に控除が集中しており、CO2が確実に貯留されたという十分な証拠がないまま多額の支払いが行われていた実態が浮き彫りになっている。
こうした懸念は、OBBBによって税額控除額が引き上げられたことでさらに強まっている。同法案は、EORと地層貯留の控除額を同等に設定しており、これにより長期的には数百億ドル(数兆円)規模の支出が追加されると試算されている。上院財政委員会の提案では、インフレ調整の計算方法を変更し、指数の適用を遅らせるなどの調整が行われた。業界団体は、インフレが控除の実質的な価値をすでに侵食しており、連邦政府の支援が継続していてもプロジェクトの展開が鈍化する可能性があると主張している。財務省は今後、具体的な検証基準を含む詳細な規則を策定する方針であり、2026年6月までの動向が注視される。
今回の米国当局の対応は、カーボンクレジット生成の根幹を成す「MRV(計測・報告・検証)」の柔軟な運用を示した重要な事例だ。特に、政府インフラの整備遅延が民間投資を阻害しないよう、第三者専門家による証明を認めた点は、日本のCCS事業環境整備においても示唆に富む。
今後、日本の商社やエネルギー企業が米国で展開するCCSプロジェクトの収益性にも直結するため、2026年6月のEPAシステム稼働状況は極めて重要なウォッチポイントとなるだろう。


