カナダ・アルバータ州北部のピースリバー・パルプ工場において12月18日、森林製品大手のマーサー・インターナショナル(Mercer International Inc.)が、二酸化炭素(CO2)回収技術のデモンストレーション運転を開始した。
スバンテ・テクノロジーズ(Svante Technologies Inc.)が開発した固体吸着システムを採用し、バイオマス由来の排出ガスからCO2を直接回収する。この6カ月間の実証プロジェクトは、製紙・パルプ産業における脱炭素化と、大気中の炭素を実質的に削減する「ネガティブエミッション」の実現に向けた重要な一歩となる。
今回のプロジェクトで焦点となるのは、工場のリカバリーボイラー(黒液回収ボイラー)から排出されるガスだ。この排出ガスに含まれるCO2は、化石燃料由来ではなく植物などの生物資源に由来する「バイオジェニックCO2」に分類される。
これを回収して永続的に貯蔵することで、排出量よりも削減量が多い「バイオエネルギー起源炭素回収・貯留(BECCS)」を達成し、ネットネガティブの実現が可能となる。
実証フェーズに先立ち、同社は工場の既存設備への統合計画やコスト、リスクを評価するフロントエンド・エンジニアリング・デザイン(FEED)の第2段階を完了させている。今回の実証運転では、実際の操業環境下での回収性能や信頼性、メンテナンス要件などのデータを収集し、将来的な商業規模への拡大に向けた技術的・経済的な妥当性を検証する。
マーサー・インターナショナルの最高サステナビリティ責任者(CSO)兼カナダ・パルプ事業担当シニア・バイス・プレジデントのビル・アダムス氏は「このデモンストレーション・ユニットの稼働は、当社のチームにとって費用対効果の高い重要なステップである。実際の操業環境で炭素回収性能を評価し、将来のスケールアップに必要な実務データを収集できる」と述べた。
スバンテ・デベロップメント・カンパニー(Svante Development Company)の社長であるスコット・ガードナー氏は「パルプ工場の操業環境で当社の技術をテストすることは、業界全体で商業規模の炭素回収を検討するための情報収集において不可欠なプロセスだ」と指摘した。
製紙・パルプ産業は、高濃度で安定したバイオジェニックCO2の流れを生み出すため、炭素除去(CDR)分野において有望な初期市場と目されている。一方で、大規模な設備投資コストや、回収したCO2の輸送・貯蔵インフラの整備、長期的な政策インセンティブの不透明性といった課題も残る。本プロジェクトの結果は、こうした技術的期待と商業的現実のギャップを埋める鍵として注目されている。
今後、マーサー・インターナショナルは実証運転で得られたデータに基づき、次段階のエンジニアリング計画と長期的な脱炭素戦略を策定する方針だ。次回の大きな進展は、実証期間が終了する6カ月後のデータ解析結果の公表時期になるとみられる。
今回のニュースは、単なる「工場の脱炭素化」に留まらない。
パルプ工場という「バイオマスが既に集積している場所」でCDRを行うことは、輸送コストやエネルギー効率の面で極めて合理的である。特に、ボランタリーカーボン市場において、バイオジェニックCO2の回収による「除去クレジット(Removal Credits)」は、従来の回避クレジットよりも高い価格で取引される傾向にある。
日本の製紙メーカーにとっても、カナダでのこうした先行事例は、将来的に国内でのBECCS事業を展開する際の重要なベンチマークとなるだろう。
今後は、回収したCO2の「貯蔵先」をどう確保するかが、事業の商業化を左右する次の論点となる。


