デンマーク・エネルギー庁(Danish Energy Agency)は12月18日、同国初となるフルスケールの商業用二酸化炭素(CO2)地中貯留施設を承認した。
本許可は、イネオスE&P(INEOS E&P)、ハーバー・エナジー(Harbour Energy)、およびデンマーク政府系基金の北海基金(North Sea Fund)による共同事業「グリーンサンド・フューチャー(Greensand Future)」に与えられた。北海のエスビャウ北西約240キロメートルに位置する「ニニ・ウェスト(Nini West)」油田を再利用し、2026年半ばの稼働開始を目指す。
今回の承認により、グリーンサンド・フューチャーは今後30年間にわたり、最大240万トンのCO2を貯留する権利を取得した。これはデンマークが商業用CO2貯留に対して発行した初めての完全なライセンスであり、同国が構築を進める炭素回収・貯留(CCS)バリューチェーンの要となる。地中貯留は、回収されたCO2が確実に気候変動対策としての利益をもたらすための「最後の鎖」として位置付けられている。
グリーンサンド・フューチャーは、2026年半ばに同施設が稼働すれば、デンマーク初であると同時に欧州連合(EU)で最初のフルスケール稼働を果たすCO2貯留施設になると予測している。このプロジェクトは、単なる貯留機能の提供にとどまらず、CCSサービスの国内市場を確立し、デンマークの国家的な気候目標達成を強力に支援するものと期待されている。
本プロジェクトの成功は、これまでの実証実験に裏打ちされている。2022年末、グリーンサンド・コンソーシアムはニニ・ウェストへの最大1万5,000トンのCO2試験注入許可を取得した。続く2023年3月には、デンマークの大陸棚で初となるCO2注入を実施し、回収から輸送、貯留に至る一連のバリューチェーンが技術的に可能であることを証明した。
貯留の仕組みは、海底下約1,700メートルから1,800メートルに位置する砂岩の貯留層にCO2を注入するものだ。上層に存在する不浸透性の岩石層が蓋の役割を果たし、永続的な封じ込めを可能にする。特筆すべきは、かつて石油・ガス生産に使用されていた「ニニA(Nini-A)」生産プラットフォームなどの既存オフショアインフラを再利用する点である。
遺産資産(レガシーアセット)を再利用するアプローチは、建設コストを抑制するだけでなく、化石燃料生産から永久的な炭素貯留への転換を加速させる効果がある。
デンマーク・エネルギー庁のペーター・クリスチャン・バゲスガード・ハンセン(Peter Christian Baggesgaard Hansen)副局長は、「CO2が雰囲気から隔離・貯留されて初めて気候に恩恵をもたらす。今回の承認はCCS市場を確立し、大きな気候変動対策の成果を得るための極めて重要な一歩だ」と述べた。
今回のデンマークによる商業ライセンス発行は、欧州におけるネガティブエミッション市場の成立を決定づける象徴的なニュースだ。特筆すべきは、枯渇油田という既存インフラを「廃棄物」ではなく「貯留資産」として再定義した点にある。これは、高コストが課題とされる炭素除去(CDR)分野において、初期投資を抑えつつ早期稼働を実現する現実的なモデルケースとなるだろう。
今後は、ここで貯留されたCO2が、EUの炭素除去認証枠組み(CRCF)等を通じて、どのように高品質なカーボンクレジットとして収益化されるかが焦点となる。日本の事業者にとっても、CCSを単なるコストセンターではなく、排出権取引や除去クレジット創出の基盤と捉えるデンマークの戦略は、今後の事業展開における重要な示唆を含んでいる。
参考:https://ens.dk/presse/energistyrelsen-godkender-foerste-co2-lager-i-danmark


