国際エネルギー機関(IEA)は12月17日、世界の石炭市場に関する最新の年次報告書「石炭2025(Coal 2025)」を公開し、石炭利用に伴う二酸化炭素(CO2)排出のうち、炭素回収・貯留(CCS)設備で回収されているのはわずか0.06%に過ぎないと警告した。
2025年の世界全体の石炭需要が過去最高の88億5,000万トンに達すると予測される中で、排出削減の切り札とされる炭素除去技術の導入が、依然として極めて限定的な水準にとどまっている実態が浮き彫りとなった。
IEAの分析によると、世界中の石炭関連施設で稼働している炭素回収システムの総能力は、現在年間で約1,000万トンにとどまっている。これは、エネルギー移行を進める上で直面している課題の巨大さを裏付ける数字であり、石炭需要に即時の減少傾向が見られない現状において、炭素除去(CDR)の重要性が相対的に高まっていることを示唆している。
設備容量の面では、現在も北米が世界の半分以上を占めてリードを保っている。北米では、米国(United States)のグレートプレーンズ・シンフューエル施設や、2023年に再稼働したテキサス州のペトラ・ノバ(Petra Nova)プロジェクト、さらにカナダ(Canada)のバウンダリー・ダム(Boundary Dam)発電所といった、世界最大級の4プロジェクトのうち3つが集中している。
一方で、新規プロジェクトの展開では中国(People’s Republic of China)が最も活発な市場として台頭している。中国は2024年から2025年にかけてCCSの設置容量を50%近く拡大させており、2025年9月に稼働した華能隴東エネルギー基地(Huaneng Longdong Energy Base)は、石炭火力発電所に併設されたものとして世界最大の年間150万トンのCO2回収能力を誇る。
しかし、こうした特定の進展はあるものの、世界全体で見れば計画段階にあるCCS容量の大部分はいまだ開発の初期段階にあるとIEAは指摘した。水素製鉄などの代替技術は依然としてコストや原材料の調達に制約があるため、重工業分野における原料炭需要は今後も底堅く推移すると予想される。
IEAは、炭素回収・利用・貯留(CCUS)の導入が劇的に加速しなければ、石炭が低炭素エネルギーシステムにおいて役割を維持し続けることは困難になると強い危機感を示した。再生可能エネルギーや原子力、天然ガスが電力構成を塗り替える一方で、炭素除去インフラの整備が追いつかなければ、石炭による環境負荷を十分に低減することは不可能であるとの認識が示されている。
石炭火力の排出削減率がわずか0.06%という現実は、カーボンクレジット市場にとって巨大な「オフセット需要」の潜在的発生を意味する。
CCSの実装が間に合わない現状では、排出者は規制対応や企業のネットゼロ目標を達成するために、高品質なカーボンクレジットや永続的な炭素除去(CDR)ソリューションを外部から調達せざるを得なくなるからだ。
特に中小企業やスタートアップにとっては、大規模なCCS設備の建設は困難でも、地域のバイオマスを活用したCDR手法の提供や、透明性の高いクレジットの仲介といった分野に、今後数年間で大きな商機が生まれると予測される。


