ブラジル州政府がカーボンクレジット管理組織「SPV」を設立 REDD+や植林で2030年ネットゼロ目標

村山 大翔

村山 大翔

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ブラジルのマットグロッソ・ド・スル州政府は、同州の自然資本を活用したカーボンクレジット市場の育成を目的として、特別目的事業体(SPV)である「MSアティボス・アンビエンタイス(MS Ativos Ambientais)」を設立した。関連法案である「法律第6,526号」の承認に基づくもので、同社は州内の森林保全や再植林プロジェクトを一元管理し、2030年までのカーボンニュートラル達成を加速させる狙いだ。

州主導による炭素資産の証券化と管理

新たに設立されたMSアティボス・アンビエンタイスは、州環境・開発・科学技術・イノベーション局(Semadesc)の管轄下に置かれる。同社の主たる役割は、州が保有する自然遺産を経済的および環境的な機会へと転換することにある。具体的には、環境資産のマーケティング、民間セクターとのパートナーシップ構築、そして保全・修復活動への国内外からの投資誘致を担う。

今回の設立根拠となる法律第6,526号は、同社が注力すべき領域を規定しており、その中核には「REDD+(森林減少・劣化の抑制による排出削減)」および「再植林による炭素隔離」が含まれている。これにより、従来は個別の民間プロジェクト主導であった炭素クレジット創出が、州政府の管理下で組織的に行われる体制が整うこととなる。

パリ協定を20年前倒しする野心的な目標

マットグロッソ・ド・スル州は、世界的なアグリビジネスの拠点であると同時に、パンタナール(大湿原)、セラード(サバンナ)、大西洋岸森林という多様かつ重要なバイオーム(生物群系)を擁している。開発と保全のバランスが課題となる中、同州は「2030年までのカーボンニュートラル達成」という極めて野心的な目標を掲げた。

これは、パリ協定で多くの国や地域が目指す2050年の目標を20年も前倒しするものである。MSアティボス・アンビエンタイスを通じたカーボンファイナンス(炭素金融)の活用は、この目標達成に向けた資金調達の生命線となる。

本ニュースは、ブラジルの地方自治体が炭素市場への関与を「規制」から「直接的な事業主体」へと深化させた点で重要である。

管轄区域アプローチ(Jurisdictional Approach)の具現化

民間事業者が個別に実施するプロジェクトベースのクレジットとは異なり、州政府がSPVを通じて管理することで、リーケージ(排出の漏出)リスクの低減や、土地権利関係の法的安定性が期待できる。これは、高品質なカーボンクレジットを求める日本の商社やエネルギー企業にとって、調達先の信頼性を判断する一つの材料となる。

アグリビジネスとの共存モデル

マットグロッソ・ド・スル州は農業開発圧力が高い地域である。ここで州政府主導のREDD+が機能すれば、農地拡大と森林保全を両立させる「持続可能な農業」の先進事例となり得る。特に、生物多様性の宝庫であるパンタナール湿原の保全が含まれることは、クレジットに「生物多様性保全」というコベネフィットをもたらし、市場価格のプレミアムにつながる可能性がある。

2030年目標の現実味

2030年という期限は目前であり、州政府には即効性のある施策が求められる。今後、MSアティボス・アンビエンタイスがどのような基準でクレジットを発行し、国際市場でどう評価されるかが、地方自治体による気候変動対策の試金石となるだろう。

参考:https://aacpdappls.net.ms.gov.br/appls/legislacao/secoge/govato.nsf/2cab8d75940ca72e04256d1a004acf14/3efc1e56105450d004258d620049c061?OpenDocument