英バイオ炭スタートアップBlack Bull Biocharが種子段階でデット・エクイティ併用 7億円の資金調達で北欧へ拡大

村山 大翔

村山 大翔

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英国のバイオ炭開発スタートアップであるブラック・ブル・バイオチャー(Black Bull Biochar / 以下、BBB)は2025年12月19日、シードラウンドにおいて総額400万ポンド(約7億8,000万円)の資金調達を完了したと発表した。

同社は今回の調達において、株式による出資と融資を折半で組み合わせる手法を採用しており、アセットヘビーなバイオ炭事業における設備投資のモデルケースとして注目される。調達した資金は英国内のインフラ増強およびデンマークを含む北欧市場への進出に充てられる。

公的支援を活用したハイブリッド調達

今回の400万ポンド(約7億8,000万円)の調達構造は、株式出資と借入がそれぞれ200万ポンド(約3億9,000万円)ずつという均等な構成となっている。

株式出資枠には、ディープテック特化のベンチャーキャピタルであるTSPベンチャーズ(TSP Ventures)、マンチェスター広域自治体投資基金(Greater Manchester Combined Authority Investment Fund)、およびエディンバラ大学の投資部門であるオールド・カレッジ・キャピタル(Old College Capital)が参画した。

一方、デットファイナンス枠では、英国のイノベーション庁(Innovate UK)が運営する「フューチャー・エコノミー・ファシリティ」からの融資を獲得した。BBBはこの融資について、「我々のようなアセットヘビーなビジネスにとって、真のゲームチェンジャーである」と位置づけている。通常、初期段階のハードウェア系スタートアップにとって、希薄化を招く株式調達のみに頼らず、設備投資資金を融資で賄うことは財務戦略上極めて重要である。

マンチェスターへの移転と北欧展開

BBBは今回の資金調達を受け、2026年に向けた以下の主要戦略を掲げた。

  • 人員体制の倍増
    事業拡大に伴う採用強化。
  • インフラ投資
    英北西部におけるバイオ炭製造設備の増強。
  • 海外進出
    デンマークおよび北欧諸国への市場拡大。
  • R&D強化
    新たな研究能力の構築とバイオ炭製品の開発。
  • 本社移転
    拠点をマンチェスターへ移転。

同社は、農業従事者が直面する肥料コストの上昇や厳しい栄養塩規制に対し、バイオ炭を用いた土壌改良ソリューションを提供している。これは土壌の健全化と栄養効率の向上を実現すると同時に、長期間にわたり炭素を土壌中に固定する炭素除去(CDR)技術としても機能する。

サプライチェーンとの連携強化

BBBはこれまで、エディンバラ大学(The University of Edinburgh)や英国生態水文学センター(UKCEH)といった学術機関に加え、食品大手のアヴァラ・フーズ(Avara Foods)やマークス・アンド・スペンサー(Marks and Spencer)、さらにはドイツのバイオ炭プラントメーカーであるピレグ(Pyreg)など、バリューチェーン全体を網羅するパートナーと提携関係を築いてきた。

今回の発表に際し、BBBチームは「農業、産業、学術が連携し、環境課題に取り組む未来を構築する」との声明を発表し、既存システムの中で機能する実用的なソリューション展開への意欲を示した。

CDRハードウェア特有の「死の谷」を超える資金調達

今回のニュースで特筆すべきは、調達額の規模もさることながら、その「資金の質(構成)」にある。

バイオ炭を含むCDR(炭素除去)事業は、ソフトウェア産業とは異なり、プラント建設や重機購入といった多額の初期設備投資を必要とする「アセットヘビー」なビジネスモデルだ。シード期のスタートアップが設備資金をすべてベンチャーキャピタルからの出資(エクイティ)で賄おうとすると、創業者の持分が過度に希薄化するか、あるいはリターン計算が合わずに資金が集まらないという「死の谷」に直面する。

BBBが今回、英国公的機関のスキームを活用して調達額の半分を「デット(借入)」で賄ったことは、ハードウェア系気候テック企業の成長モデルとして非常に示唆に富んでいる。日本においても、環境省や経産省主導でのスタートアップ支援策は存在するが、シード・アーリー期における「設備投資への融資保証」や「ハイブリッド・ファイナンス」のスキームはまだ限定的だ。

また、BBBが次の市場として「デンマーク」を指名した点も見逃せない。北欧はバイオ炭による炭素貯留に対する政策的支援やボランタリーカーボンクレジット市場の需要が先行しており、欧州内での「地産地消型CDR」のネットワークが形成されつつあることを示している。日本のバイオ炭事業者にとっても、地域自治体や農業協同組合と連携した資金調達と、グローバルな展開戦略を同時に描く時期が来ていると言える。

参考:https://www.linkedin.com/posts/activity-7407361760338317312-FJRD