米連邦議会の民主党議員団は12月18日、輸入品および国内製造業の炭素排出量に基づき課金を行う「クリーン競争法案(Clean Competition Act: CCA)」を再提出した。
2026年1月に開始される欧州連合(EU)の炭素国境調整メカニズム(CBAM)への対抗策として、米国内の製造業保護と産業脱炭素化を加速させる狙いがある。特筆すべきは、本法案が直接空気回収(DAC)技術による排出相殺を明示的に認め、徴収した収益を「差額決済契約(CfD)」を含む脱炭素技術支援へ還流させる点だ。
炭素集約度に基づく課金とDACへのインセンティブ
シェルドン・ホワイトハウス上院議員らが主導するこの法案は、鉄鋼、アルミニウム、セメント、水素などエネルギー集約型の製品を対象とする。2025年の米国産業平均を「ベースライン炭素集約度」と定め、これを超過した排出量に対して、輸入品・国産品を問わず炭素集約度課金(Carbon Intensity Charge)を課す仕組みだ。
本法案はCDR(二酸化炭素除去)業界にとって極めて重要な条項を含んでいる。DAC(直接空気回収)によって捕捉・隔離された温室効果ガス(石油増進回収を除く)は、炭素集約度課金から控除することが認められる。これにより、排出削減が困難な産業(Hard-to-Abate産業)にとって、DAC技術の導入やクレジット購入が経済的合理性を持つことになる。
初期価格はトンあたり60ドル、収益は産業支援へ
超過排出に対する課金は、二酸化炭素換算(CO2e)1トンあたり60ドル(約8,700円)から開始され、インフレ率に加えて毎年5%ずつ引き上げられる。この制度から得られる収益は、当初1,000億ドル(約14兆5,000億円)が事前計上され、その75%がエネルギー省(DOE)を通じた国内の産業脱炭素化支援に充てられる。
具体的には、補助金や融資に加え、差額決済契約(CfD)の入札プロセスが導入される点が画期的だ。CfDは、低炭素製品の製造コスト(ストライクプライス)と市場価格の差額を政府が補填する仕組みであり、高コストな初期段階のCDR/CCSプロジェクトの事業採算性を確保する切り札として期待される。
「カーボンクラブ」による国際協調と対中戦略
法案には、低炭素製品の市場拡大を目指す「カーボンクラブ」の設立も盛り込まれた。米国と同等の環境基準を持つ貿易相手国とは、データの相互承認や課金の減免措置について交渉を行う。
米国経済の炭素集約度は貿易相手国平均より50%低く、中国経済と比較すると3分の1以下であるとされる。本法案は、気候変動対策を名目にしつつ、事実上、炭素効率の悪い中国製品などを市場から締め出す産業政策の側面も強い。
日本への示唆
本ニュースは、日本の製造業およびCDR事業者にとって二つの意味を持つ。
第一に、EUに続き米国も「炭素国境調整」へ動いたことで、脱炭素が明確な「市場参入条件」となった点だ。もし法案が成立すれば、日本企業も米国の「カーボンクラブ」基準を満たさなければ、対米輸出で不利な立場に置かれるリスクがある。
第二に、米国がDACやCfDといった具体的なCDR支援策を法制化した点だ。これは米国内でのCDR需要を爆発的に喚起する可能性があり、日本のCDR技術やプラントエンジニアリング企業にとっては、巨大な米国市場へ技術輸出する好機ともなり得る。


