独自動車大手フォルクスワーゲンの発電部門と気候テック企業の合弁会社である「フォルクスワーゲン・クライメートパートナー(Volkswagen ClimatePartner)」は12月17日、英国スコットランドでの泥炭地(ピートランド)修復プロジェクトへの投資を発表した。現地農場および専門コンサルタントと提携し、今後100年間にわたり60ヘクタールの泥炭地を再生させることで、1万2,000トン(CO2換算)を超える炭素削減および除去(CDR)効果の創出を目指す。
100年を見据えた「高潔な」炭素除去への挑戦
本プロジェクトは、スコットランドのパースシャーにあるカログレン農場を舞台に展開される。フォルクスワーゲン・クライメートパートナーは、英国の泥炭地再生コンサルティング大手である「カレドニアン・クライメート・パートナーズ・リミテッド(Caledonian Climate Partners Limited)」の仲介により、同農場と長期的なパートナーシップを締結した。
計画では、今後1世紀という長期スパンで泥炭地の生態系機能を回復させる。これにより、国連の持続可能な開発目標(SDGs)への貢献に加え、スコットランド政府が掲げる「2045年ネットゼロ目標」とも整合する形で、累計1万2,000トン以上のCO2削減・除去効果を見込んでいる。
NbSとしての泥炭地のポテンシャルとMRVの徹底
泥炭地は、適切に管理されれば森林を凌ぐ炭素貯蔵能力を持つとされるが、劣化すると逆にCO2排出源となる。本プロジェクトでは、湿地帯の主要植物であるミズゴケの生育環境を整えることで、CO2の隔離(除去)機能を取り戻す。同時に、天然の濾過装置として水質保全や、洪水・干ばつに対する緩衝機能といった「自然に根ざした解決策(NbS)」としての多面的な便益も提供する。
現地ではすでに請負業者の「DCレストレーション・コントラクツ・リミテッド(DC Restoration Contracts Ltd.)」が作業を開始しており、露出した泥炭層の修復や植生回復に着手している。
特筆すべきは、プロジェクトの品質保証を担保するための厳格な監視体制だ。フォルクスワーゲン・クライメートパートナーからの資金提供により、ドローン測量や現地調査、詳細な生息地評価を組み合わせた高度なMRV(測定・報告・検証)プロセスが導入される。これにより、創出されるクレジットの透明性と信頼性が確保される仕組みだ。
企業と土地所有者の新たな連携モデル
フォルクスワーゲン・クライメートパートナーのジェイコブ・ブルジョワ氏は、今回の提携について次のように述べた。 「志を同じくするパートナーと共に、人々、自然、そして気候に永続的な利益をもたらすことに誇りを感じる。劣化した泥炭地の修復は、特にスコットランドにおいて極めて重要だ。同地の景観は膨大な炭素を貯蔵しており、その回復は気候変動対策における最も効果的な自然由来の解決策の一つである」
また、カレドニアン・クライメート・パートナーズ・リミテッドのマネージング・ディレクター、フレディ・イングルビー氏は次のように指摘した。 「これは画期的な契約だ。適切なデューデリジェンス(適正評価手続き)があれば、企業と土地所有者の間の高価値かつ高潔なパートナーシップが、自然由来の解決策を活用し、世界的な気候・自然目標の達成に寄与できることを実証している」
本ニュースの核心は、欧州企業が単に市場からクレジットを購入するのではなく、100年単位の長期プロジェクトへ「直接投資」し、開発段階から関与を深めている点にある。
近年、CDR(炭素除去)市場では、プロジェクトの永続性と品質が厳しく問われている。自動車大手のような排出責任の大きい企業にとって、不透明なクレジットの購入はグリーンウォッシュのリスクとなる。そのため、自らサプライヤー(土地所有者や専門家)と組み、MRV(測定・報告・検証)のプロセスまで管理下に置く「インセッティング」に近いアプローチが主流になりつつある。
日本企業にとっても、森林や農地由来のJ-クレジット調達において、単発の購入契約にとどまらず、本件のように土地所有者や技術パートナーと長期的なコンソーシアムを組み、品質管理に関与していく姿勢が、今後の脱炭素戦略の差別化要因となるだろう。
参考:https://volkswagen-climatepartner.com/project/carroglen-scottish-highlands/


