英Drax、カナダ工場閉鎖とBECCS投資加速 アジア向けペレット事業の縮小鮮明に

村山 大翔

村山 大翔

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英バイオマス発電大手ドラックス・グループ(Drax Group)は12月11日、最新の業績見通しおよび戦略的投資計画を発表した。2025年通期の調整後EBITDA(金利・税引・償却前利益)が市場予想の上限である9億ポンド(約1,755億円)前後に達する見通しを示す一方、カナダにある木質ペレット工場の一つを閉鎖することを明らかにした。

アジア市場の低迷を理由としており、同社は今後、英国国内での炭素回収・貯留付きバイオマス発電(BECCS)や、急増するデータセンター需要への電力供給へ経営資源を集中させる姿勢を鮮明にした。

BECCSとデータセンターへの戦略的ピボット

特に注目すべきは、同社の炭素除去(CDR)事業を担う子会社「エリミニ(Elimini)」を通じたBECCSへのコミットメントだ。ドラックス発電所においては、将来的にBECCSによる炭素除去技術を実装し、カーボンネガティブな電力供給を目指す長期計画が維持されている。

また、同社はドラックス発電所の敷地内に、当初100メガワット(MW)規模、将来的には1ギガワット(GW)超のデータセンターを誘致する計画を進めている。AI普及に伴い急増する電力需要に対し、バイオマスによるベースロード電源と、将来的なCDRクレジットをセットで提供できる強みを活かす狙いだ。11月には英政府と新たな差額決済契約(CfD)を締結し、2027年から2031年までの安定的なバイオマス発電枠を確保している。

アジア向けペレット供給網の見直し

一方で、日本のエネルギー業界にとって看過できない事実が含まれている。ドラックスは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州にあるウィリアムズレイク(Williams Lake)のペレット製造工場を閉鎖する決定を下した。

同社は声明の中で、「主にアジアへペレットを販売しているカナダ事業は、より厳しい状況にある」と指摘。これを受け、短中期的には新たな生産能力への投資を行わず、米国ワシントン州で計画していたロングビュープロジェクトも一時停止の状態にあるとした。これは、日本や韓国などのアジア市場における木質バイオマス燃料の調達環境が、価格競争や需要変動によって厳しさを増していることを示唆している。

財務基盤と今後の展望

2025年下半期の好調な業績を受け、ドラックスの財務基盤は強固だ。2027年以降も年換算で6億〜7億ポンド(約1,170億〜1,365億円)の調整後EBITDAを目標としている。また、柔軟な電力供給能力(FlexGen)を強化するため、揚水発電やガスタービンに加え、新たに蓄電システム(BESS)のポートフォリオ拡大を進めており、10月にはアパトゥラ(Apatura)から総出力260MW相当のBESSプロジェクトを取得する契約を締結した。

ドラックスのウィル・ガーディナー最高経営責任者(CEO)は、「2050年までに電力需要は倍増する。風が吹かず日が照らない時でも、確実に電力を供給できるディスパッチャブル(給電指令可能)な発電が必要だ」と述べ、断続的な再エネを補完するバイオマスと、そこから生み出されるCDR価値の重要性を強調した。

日本のバイオマス戦略への警鐘とCDRの商機

今回のドラックスの発表は、日本のバイオマス発電事業者にとって「対岸の火事」ではない。世界最大級のサプライヤーが「アジア市場は厳しい」と判断し、生産拠点を閉鎖した事実は重い。日本国内では固定価格買取制度(FIT)に依存した輸入バイオマス発電が多く稼働しているが、燃料調達のリスクとコスト増が顕在化しつつある。

一方で、ドラックスの視線は明確に「ただ電気を作る」ことから、「電力を供給しつつ、炭素を除去する(BECCS)」こと、そしてその価値を「データセンターという大口需要家」に直接販売することへシフトしている。日本企業にとっても、バイオマス発電を単なる再エネ電源としてではなく、将来的なCDR創出源として再定義し、ハイパースケーラーの脱炭素ニーズと結びつけるビジネスモデルへの転換が、生き残りの鍵となるだろう。

参考:https://www.drax.com/financial-news/trading-update-strong-performance-and-options-to-invest/