世界経済の9割超が「成長と脱炭素」を両立 パリ協定から10年で構造転換が加速

村山 大翔

村山 大翔

「世界経済の9割超が「成長と脱炭素」を両立 パリ協定から10年で構造転換が加速」のアイキャッチ画像

英国を拠点とするシンクタンク、エネルギー・気候インテリジェンス・ユニット(ECIU)が12月11日に発表した最新報告書によると、世界GDPの92%を占める国々が、経済成長と二酸化炭素(CO2)排出量の相関を断ち切るデカップリング(切り離し)を達成していることが明らかになった。

2015年のパリ協定採択以降、経済発展を犠牲にせずに排出削減を進める傾向が、先進国のみならず新興国にも拡大しており、ネットゼロに向けた世界経済の構造転換が鮮明となっている。

「絶対的デカップリング」が世界GDPの半数に迫る

報告書『パリ協定から10年:世界的な排出デカップリングの進展(10 Years Post-Paris: How emissions decoupling has progressed globally)』は、世界のGDPの97%以上、排出量の93%をカバーする113カ国を対象に分析を行ったものである。

特筆すべきは、対象国の排出量を「消費ベース」で算出している点だ。これにより、自国の排出を他国へ転嫁する「オフショアリング」の影響を排除し、実質的な経済活動に伴う炭素効率を評価している。

分析の結果、パリ協定後の期間(2015〜2023年)において、経済規模を拡大させながら排出量を絶対量として減少させる「絶対的デカップリング」を達成した国は43カ国に上った。これは協定前の10年間(2006〜2015年)の32カ国から大幅に増加しており、現在では世界GDPの46.3%がこのカテゴリーに含まれる。

一方、排出量は増加しているものの、その伸び率がGDP成長率を下回る「相対的デカップリング」にある国も40カ国確認された。中国やインドといった主要排出国はこのカテゴリーに属しており、排出増加のペースは鈍化傾向にある。これらを合わせると、世界経済の92%以上が、何らかの形で成長と排出のリンクを弱めることに成功していることになる。

先進国から新興国へ広がる脱炭素の波

絶対的デカップリングを達成した国々には、米国、英国、ドイツ、フランス、日本といった主要先進国が含まれる。特に英国やスイス、ノルウェーなどの西欧諸国は、長期間にわたり一貫して排出削減と成長を両立させてきた。

注目すべきは、ブラジル、エジプト、ヨルダンといった新興国が、かつての「排出増を伴う成長」から転換し、絶対的デカップリングのグループに加わった点である。これは、再生可能エネルギーのコスト低下や気候政策の浸透により、開発段階にある国々でも低炭素な発展が可能になりつつあることを示唆している。

ECIUの国際部門責任者であるガレス・レッドモンド・キング氏は、「パリ協定によって生まれた勢いは止まらない。クリーンエネルギーへの投資が化石燃料への投資を2対1で上回る現状が、経済的な現実を作り出している」と指摘した。

CDR市場への示唆、経済的余力が「質の高い除去」を支える

今回の報告は、カーボンクレジットおよび炭素除去(CDR)市場にとっても重要な意味を持つ。

第一に、マクロ経済の観点から「脱炭素は経済成長を阻害しない」という事実がデータで裏付けられたことは、企業や政府が気候変動対策へ資金を投じる際の正当性を補強する。経済成長が続くことで、残余排出を相殺するためのCDR技術や、高品質なカーボンクレジット購入への投資余力が生まれるからだ。

第二に、絶対的デカップリングを達成した国が増加しているとはいえ、世界全体の排出量は依然として増加傾向にある。パリ協定の目標である「1.5度」または「2度未満」の経路に乗せるためには、排出曲線をより急激な「構造的減少」へと折り曲げる必要がある。デカップリングはその第一歩に過ぎず、今後は削減困難なセクターにおける技術革新と、大気中のCO2を直接削減するCDRの社会実装が、排出総量を純減させるための鍵となるだろう。

ECIUのネットゼロ・トラッカー責任者であるジョン・ラング氏は、「世界全体の合計値が最も重要であり、排出量は依然として増加しているが、そのペースは10年前よりはるかに遅い。構造的なシフトは間違いなく起きている」と述べている。

次回のCOPに向け、各国はNDCの引き上げを迫られている。デカップリングの進展を背景に、より野心的な削減目標と、それを補完するCDR活用戦略がどこまで具体化されるかが焦点となる。

参考:https://eciu.net/analysis/reports/2025/10-years-post-paris-decoupling-globally