欧州委、スウェーデンの「社会気候計画」を初承認 新排出量取引(ETS2)収益をEV補助へ

村山 大翔

村山 大翔

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欧州委員会は12月11日、スウェーデン政府が提出した「社会気候計画(Social Climate Plan)」を正式に承認したと発表した。これは、建物や道路輸送部門を対象とした新たな排出量取引制度(ETS2)の収益を原資とする「社会気候基金(Social Climate Fund)」適用の初承認事例となる。同国は炭素価格の導入に伴う家計負担の軽減策として、地方部の低所得世帯向けに電気自動車(EV)のリース費用などを支援する方針だ。

承認されたスウェーデンの計画総額は5億3,280万ユーロ(約840億円)に上り、そのうち3億8,970万ユーロ(約615億円)がEUの社会気候基金から拠出され、残りをスウェーデン政府が負担する。この資金は、炭素価格の上昇によって最も影響を受ける脆弱な世帯が、クリーンな輸送手段へ移行するための公正な移行支援に充てられる。

具体的な支援対象は、公共交通機関の利用が困難な177の地方自治体および433の特定地域に居住する低・中所得世帯である。約11万5,500世帯に対し、新車または中古のEVを購入・リースする費用として、最大3年間、月額1,300スウェーデンクローナ(約1万8,000円)を支給する。スウェーデン当局は、制度開始後の2026年上半期に欧州委へ最初の支払いを請求する予定だ。

特筆すべき点として、スウェーデンは今回の計画において、ETS2の適用範囲を独自に拡大する要請を行っている。本来の対象である建物・道路輸送に加え、鉄道、農業、林業、漁業で使用される車両も排出量取引の枠組みに組み込む方針を示した。これは、国の主要産業における脱炭素化を加速させると同時に、歳入基盤を強化する狙いがあるとみられる。

欧州委は、社会気候基金全体で2026年から2032年の間に少なくとも867億ユーロ(約13兆7,000億円)を動員し、建物の断熱改修や再エネ導入、低炭素輸送などを支援する計画だ。しかし、加盟国による計画策定は難航しており、現時点で正式に提出を済ませたのはスウェーデン、ラトビア、リトアニア、マルタの4カ国にとどまっている。全27カ国の計画承認には、各国内での政治的な調整が課題となりそうだ。

参考:https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_3024