世界最大のカーボンクレジット基準管理団体であるベラ(Verra)は12月12日、中国で実施された複数のプロジェクトにおいて政府承認書類の真正性に重大な疑義が生じたとして、4件のプロジェクト登録を正式に拒否し、さらに45件について再審査を開始したと発表した。
ベラは該当プロジェクトに対し、すでに発行された442万トン分のカーボンクレジット(VCU)の「補填」を命じており、信頼性が揺らぐボランタリーカーボンクレジット市場において、品質管理を徹底する断固たる姿勢を示した。
書類偽造の疑いと442万トンの補填命令
今回の措置は、中国における「農業・林業・その他土地利用(AFOLU)」分野のプロジェクトを対象としたものだ。中国の国内規制では、土地利用に関わるプロジェクトは政府当局からの適切な承認を得ることが義務付けられている。
しかし、ベラの品質管理レビュー(QCR)の結果、プロジェクト提案者である「貴州バイヘン・ファーティライザー(Guizhou Baiheng Fertiliser Co., Ltd.)」が提出した政府承認書類について、第三者検証機関(VVB)がその真正性を確認できなかったことが判明した。当局が実際にプロジェクトを認可した証拠が得られなかったため、ベラは以下の4件のプロジェクト登録を拒否する決定を下した。
- 対象プロジェクトID:1847, 1864, 1865, 2070
- 影響規模:発行済みカーボンクレジット総数は442万VCU(442万トン相当のCO2削減量)
ベラはプロジェクト提案者に対し、これら442万トン分のVCUを市場から回収し、同等の有効なカーボンクレジットで「補填」することを求めている。また、森林火災などのリスクに備えて積み立てられていた「バッファプール」への拠出分(約49万トン)も取り消される。
認証機関トップが語る「市場の信頼性」
ベラのマンディ・ランバロス最高経営責任者は声明で、今回の不正疑惑を極めて深刻に受け止めていると強調した。
「当団体の基準プログラムの誠実さは、プロジェクトが必要な政府承認を含むすべての法的要件を満たしているかどうかにかかっている。したがって、我々は検証機関(VVB)に対し、中国におけるすべてのプロジェクトについて、政府承認の真正性を独自に確認し、その証拠を提出することを義務付ける。これは市場の信頼性と、すべてのステークホルダーの信用を守るために不可欠な措置だ」
審査対象はさらに拡大、合計2,000万トン超に波及も
疑惑の影響は拒否された4件にとどまらない。ベラは同様の不確実性が見られるとして、さらに広範なレビューに着手している。
- 品質管理レビュー(QCR)入りした35件
在登録中または申請中の35プロジェクト(発行済み総数1,420万VCU)について、追加の審査を開始した。検証機関は中国当局に直接連絡を取り、正当な認可が存在するかを確認しなければならない。確認が取れない場合、これらのプロジェクトも拒否され、カーボンクレジットの補填が求められる可能性がある。この間、新規のカーボンクレジット発行は凍結される。 - 撤退済みプロジェクトの追跡調査
すでにベラの登録簿から償却した10件のAFOLUプロジェクト(発行済み総数710万VCU)についても同様の懸念が浮上している。これらに関与していた検証機関(VVB)はすでにベラから資格停止処分を受けており、過去に遡って承認の有無を確認する調査が行われる。
カントリーリスクと品質担保への転換点
今回のベラの動きは、カーボンクレジット市場における「カントリーリスク」と「検証の厳格化」という二つの課題を浮き彫りにした。特に中国のような国家による土地利用規制が厳しい地域では、プロジェクトが地域コミュニティや政府の意向を無視して進められるリスクが以前から指摘されていた。
ベラが「書類の真正性が確認できない」という理由で、すでに発行された数百万トン規模のカーボンクレジットに対して補填(実質的な無効化と弁済)を求めたことは、市場健全化に向けた強力なメッセージとなる。一方で、これらを購入していた企業にとっては、保有資産の価値が毀損するリスクが顕在化した形となり、今後はカーボンクレジットの調達元に対するデューデリジェンス(適正評価)がいっそう厳しくなることは避けられない。
ベラはレビューの結果次第で、さらなる追加措置を発表するとしている。
参考:https://verra.org/serious-allegations-prompt-verra-to-reject-china-projects-and-launch-broader-reviews/#:~:text=WASHINGTON%20%E2%80%93%20Dec.%2012%2C%202025,initiating%20reviews%20of%2045%20others.

