欧州エネルギー取引所(EEX)は12月11日、2026年のEU排出量取引制度(EU ETS)におけるオークションカレンダー改定版を発表した。海運セクターの制度編入に伴う未利用枠の取り消し措置が適用された結果、当初計画(2025年7月発表)と比較して、市場への供給総量が約5,200万トン(EUA)減少することが明らかになった。
海運排出枠の「取り消し」が供給減の主因
今回の改定における最大の焦点は、2024年からEU ETSに本格導入された海運セクターに関する調整メカニズムである。
制度上、海運会社は2024年の検証済み排出量のうち、40%に相当する排出枠(EUA)のみを提出(償却)することが義務付けられている。しかし、環境十全性を保つための規定(ETS指令第3条gbおよび第12条3-e)に基づき、検証済み排出量と実際に提出された排出枠の「差分」は、将来のオークションに回されるのではなく、強制的に取り消しされる仕組みとなっている。
欧州委員会気候行動総局のデータによると、具体的な計算は以下の通りである。
- 2024年の検証済み海運排出量:8,981万1,331トン
- 提出された排出枠(40%分等):3,558万8,702トン
- 取り消し対象となる差分:5,424万3,768トン
この約5,400万トン規模の供給取り消しが、2026年のオークション総量に直接的な下押し圧力をかけることとなった。
非CO2ガス(メタン・亜酸化窒素)への対応
一方で、供給量を微増させる要因も含まれている。ETS指令第9条に基づき、海運活動から排出されるCO2以外の温室効果ガス(メタンおよび亜酸化窒素)が新たにカバーされることを受け、オークション総量は約237万トン上積みされた。
これら「約5,420万トンの減少」と「約240万トンの増加」を相殺した結果、2026年の全体的なオークション供給量は、前回発表比で約5,200万トン(EUA)の純減となる。
2026年オークション日程と北アイルランドの扱い
発表されたカレンダーによると、2026年の入札は以下のスケジュールで開始される。
- 共通オークションプラットフォーム(CAP3):1月8日開始(月・火・木曜実施)
- ドイツ向け:1月9日開始(毎週金曜実施)
- ポーランド向け:1月7日開始(隔週水曜実施)
また、英国の一部である北アイルランドに関しては、電力発電部門が引き続きEU ETSの適用対象となっている。これに伴い、英国政府はEU全体の上限(キャップ)におけるシェアに応じた少量の排出枠をオークションにかける予定であり、2026年10月7日に78万2,000トンのEUAが入札される。
今回の供給量削減は、市場参加者にとって需給の引き締まりを意識させる材料となる。欧州の炭素市場は、海運という新たな巨大セクターの統合と、それに伴う複雑な調整メカニズムの実装フェーズを迎え、より精緻な需給管理が求められる局面に入ったと言える。
参考:https://climate.ec.europa.eu/news-other-reads/news/revised-2026-eu-ets-auction-calendars-published-2025-12-11_en

