世界最大のカーボンクレジット基準管理団体である米ベラ(Verra)は2025年12月11日、企業のサプライチェーン排出量削減を認証する新プログラム「スコープ3標準(S3S)」の初期段階(バージョン1.0 フェーズ1)の開始時期を、当初2025年中であった予定より遅らせて2026年第1四半期(1〜3月)にすると発表した。この延期は、2025年末に改定されるカーボンクレジット基準のVCSスタンダードとの整合性を図るためのものだ。
S3Sプログラムは、企業が自社のバリューチェーンで行った脱炭素の取り組みを、信頼できるデータで証明するための新しいルールであり、カーボンインセッティングの概念に沿った基準である。プログラムの概要は以下の記事で解説している。
今回の発表で特に重要なのは、既存のVCSプログラムとの「相互運用性」が確保される点だ。これにより、プロジェクト実施者は市場のニーズに合わせて、削減成果を「他社に販売できるカーボンクレジット(VCS)」として発行するか、あるいは「自社のバリューチェーン内での削減実績(S3S)」として報告するかを、柔軟に選択できるようになる。
2026年第1四半期に始まるフェーズ1では、まずプロジェクトの事前登録が解禁される。対象となるのは、農業、建設、林業などの分野で、以下の具体的な方法論が利用可能となる。
- 農業分野(VM0042):土壌改良などの農地管理による削減
- 建設分野(VM0043):コンクリート製造時のCO2利用技術
- 林業分野(VM0045):森林管理の改善による削減
続く「フェーズ2」は2026年第3四半期(7〜9月)の開始を目指しており、ここで初めて「介入ユニット(IUs)」の発行が可能になる。IUとは、サプライチェーン内での対策によって削減・除去されたCO2(1トン換算)を証明するデジタル認証のことで、従来のカーボンクレジットに相当する役割を持つ。ただし、開始から1年間は、S3Sプログラムのスポンサー企業や開発協力パートナーのみに利用が限定される「テスト期間」となる。現在はドイツのバイエル(Bayer)などがスポンサーとして参画している。
また、ベラは「報告権(Right-to-Report:R2R)」というルールの策定も進めている。これは、例えば「ある農場で削減されたCO2」を、その作物を購入した食品メーカーや商社など、サプライチェーン上の「誰」が自社の削減実績として主張できるかを明確にするためのルールだ。これは削減成果の二重計上(ダブルカウント)を防ぐために不可欠な仕組みとなる。
ベラは現在、認証機関サステインサート(SustainCERT)と協力して両社のプログラムの違いを分析しているほか、GHGプロトコルやSBTiといった国際的な基準策定機関とも協議を続けている。企業にとって「外部のクレジットを買うオフセット」だけでなく、「自社の商流の中で削減を作るインセット」動きが加速する中、Verraの新基準はその信頼性を担保する重要なインフラとなるだろう。
参考:https://verra.org/scope-3-standard-program-year-end-update/

