アジア開発銀行、中国で「ネイチャークレジット」制度を実証へ230億円の融資 炭素や生物多様性をブロックチェーンで資産化

村山 大翔

村山 大翔

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アジア開発銀行(ADB)は12月11日、中国・四川省古藺(こりん)県における初の「ネイチャークレジット・メカニズム」の実証事業に対し、10億6800万人民元(1億5000万ドル、約230億円)の融資を承認した。

本事業は、長江の主要支流である赤水河流域を対象に、ブロックチェーン技術を活用して炭素や生物多様性といった自然資本を資産化し、環境保全と経済開発の両立を目指すものである。

自然資本を「仮想資産」へ変換

今回承認された「赤水河流域生態系保護・グリーン開発プロジェクト」の核心は、成果連動型のエコロジカル・コンペンセーション(生態系補償)と、デジタル技術に裏打ちされたクレジットシステムの導入にある。 このシステムでは、デジタルモニタリングとブロックチェーン技術を用い、生物多様性、炭素固定、生態系サービスといった「自然資本」を定量化し、仮想資産へと変換する。これにより、公的資金だけでなく民間からのグリーンファイナンスを呼び込むための基盤を構築する狙いだ。

具体的には、森林や湿地の回復、土壌保全、都市・農村の環境インフラ整備などが対象となる。これにより創出されたクレジットは、企業の環境目標達成や地域の持続可能な収入源として活用されることが想定されており、カーボンクレジットと生物多様性クレジットを包括した「環境価値の市場化」における重要なパイロットケースとなる。

長江上流の生態系と脱炭素の同時実現

対象となる赤水河流域は、長江の主要支流の中で唯一ダム建設が行われていない河川であり、28の固有種を含む112種の重要な魚類が生息する生物多様性のホットスポットである。 同地域では2022年から2024年にかけ、流域の3つの省政府が連携し、342の小規模水力発電ダムと300の堰(せき)を撤去するなど、自然再生に向けた取り組みが進められてきた。しかし、土壌侵食や汚染、極端な気象現象などの環境圧力は依然として高く、洪水リスクの高い地域での急速な都市化も課題となっていた。

本プロジェクトは、こうした課題に対し、自然資本会計の強化や新たな保護区の設立支援を通じ、国および地方レベルでのグリーンファイナンス政策を合理化する。また、低炭素型農業の推進やエコツーリズム施設の整備、環境配慮型の中小零細企業の育成も支援に含まれており、地域コミュニティに持続可能な生計手段を提供することを目指している。

ADBの戦略と国際的枠組みへの整合

ADBの中国担当カントリーディレクター、アシフ・チーマ氏は、「本プロジェクトは、生物多様性の保全、気候変動への強靭性、経済開発を統合した『ネイチャーポジティブ(自然再興)』な資金調達モデルの先駆けとなる」と述べ、コミュニティや企業、政府に対し、生態系保護への長期的インセンティブを創出する意義を強調した。

今回の融資は、生物多様性世界枠組み(昆明・モントリオール枠組み)や、中国が掲げる「生態文明」の目標とも整合するものである。炭素除去(CDR)や自然由来のソリューション(NbS)が国際的な関心を集める中、デジタル技術を活用した信頼性の高いクレジット生成メカニズムの実証結果は、今後のボランタリークレジット市場の動向にも影響を与える可能性がある。

参考:https://www.adb.org/news/adb-approves-loan-pilot-nature-credit-mechanism-and-strengthen-ecological-protection-chishui