米ワシントン州排出量取引、過去最高値70.86ドルを記録 「キャップ・アンド・インベスト」第12回オークションで需要過熱

村山 大翔

村山 大翔

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米ワシントン州エコロジー省(Department of Ecology)は2025年12月10日、同州の炭素排出量取引制度「キャップ・アンド・インベスト(Cap-and-Invest)」に基づく第12回排出枠オークションの結果を公表した。

2025年12月3日に実施された本オークションにおける現行ビンテージ(2024年および2025年分)の決済価格は、排出枠1トンあたり70.86ドル(約1万600円)となり、同制度における過去最高値を記録した。これは前四半期の決済価格である64.30ドル(約9,600円)と比較して約10%の上昇となり、脱炭素化に向けた市場の底堅い需要を示す結果となった。

現行排出枠は完売、競争率は約2倍に

今回のオークションでは、エコロジー省および同州の委託事業者から提供された合計742万4,390トンの現行ビンテージ排出枠がすべて落札された。決済価格の70.86ドルは、オークションの最低価格(フロアプライス)として設定されていた25.85ドル(約3,900円)を大幅に上回る水準である。

市場の過熱感を示す指標として、販売可能な排出枠総数に対する有効入札総数の比率(Bid-to-Cover Ratio)は1.96倍に達した。これは、供給量の約2倍の購入申し込みがあったことを意味し、排出規制対象となる企業(コンプライアンス・エンティティ)による購入比率が86.93%を占めたことからも、規制対応への強い意欲が価格を押し上げた構図が浮かび上がる。

将来分(2028年)排出枠も堅調に推移

同時に実施された「アドバンス・オークション」では、将来の排出枠確保を目的として2028年ビンテージの排出枠194万5,905トンが提供され、こちらも完売した。決済価格は29.40ドル(約4,400円)となり、現行価格とのスプレッド(価格差)は、将来的な規制強化や市場変動リスクを織り込んだ価格形成となっている。こちらの競争率は1.72倍であった。

市場監視を行う独立機関(Market Monitor)は、本オークションが入札保証や通信プロトコルなどの規定を遵守し、経済論理に則って適正に実施されたことを確認している。ハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を用いた市場集中度の分析では、現行オークションで「906」、アドバンス・オークションで「1,046」という数値が示され、健全な競争環境が維持されていると評価された。

収益は気候変動対策へ再投資

本制度は「キャップ・アンド・インベスト」の名の通り、オークション収益を州内の気候変動対策や大気質改善プロジェクトに投資することを義務付けている。特に、環境正義(Environmental Justice)の観点から、環境負荷の大きい地域への支援に重点が置かれる方針だ。

エコロジー省は、落札者からの支払いが完了した後、2025年12月31日に「オークション収益報告書(Auction Public Proceeds Report)」を公表し、最終的な収益総額を明らかにする予定である。今回の記録的な高値は、州の脱炭素資金の大幅な増額につながると同時に、排出企業にとっては炭素コストの増大を意味し、排出削減技術への投資やCDR(炭素除去)活用への圧力が一層高まることになりそうだ。

参考:https://apps.ecology.wa.gov/publications/documents/2514083.pdf#:~:text=The%20Financial%20Services%20Administrator%20will%20distribute%20auction,amount%20of%20proceeds%20generated%20from%20Auction%20%2312.