英国、20億トン級の「CO2貯留地」公募を開始 CO2除去市場の基盤拡充へ

村山 大翔

村山 大翔

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英国の石油・ガス開発規制当局である北海移行局(NSTA)は12月9日、二酸化炭素(CO2)の海底貯留を目的とした第2回ライセンスラウンドを開始した。今回対象となるのはスコットランドおよびイングランド沖の14海域で、その潜在的な貯留容量は合計で最大2ギガトン(20億トン)に達する。排出削減が困難な重工業の脱炭素化に加え、大気中からCO2を直接回収・隔離する炭素除去(CDR)の本格展開に向け、不可欠なインフラ基盤を確保する狙いだ。

枯渇油ガス田と帯水層を開発

今回の公募は2026年3月24日まで実施され、審査を経て2027年初頭にライセンスが付与される見通しだ。対象となる14か所は、NSTAが選定した「枯渇油ガス田」と、民間事業者のノミネーションに基づき選定された「帯水層」の2種類で構成される。これらは、クラウン・エステート(王室領地管理団体)との協議を経て決定された。

CO2貯留地の確保は、英国が目指すネットゼロ戦略の要となる。回収したCO2を恒久的に地中へ封じ込める場所(ストレージ)がなければ、CCS(炭素回収・貯留)プロジェクトは成立しないためだ。NSTAのスチュアート・ペイン最高経営責任者(CEO)は、「英国政府は炭素貯留とそれが生み出す雇用、投資を全面的に支持している」と述べ、エネルギー転換におけるCCSの重要性を強調した。

開発パイプラインに「1,800万トン分のCDR」

英国の炭素回収貯留協会(CCSA)が8日に発表した最新レポートによると、英国内で開発中の100以上のCCUS(炭素回収・利用・貯留)プロジェクトのパイプラインには、年間約1,800万トン分のCDR技術が含まれている。これは、バイオエネルギーCCS(BECCS)や直接空気回収(DAC)などを用いて、過去に排出されたCO2や残留排出をオフセットするためのものである。

2023年に実施された第1回ライセンスラウンドでは21件のライセンスが付与されたが、実際にCO2の圧入許可段階に到達したのは、先行していた「エンデュランス(Endurance)」と「ハイネット(HyNet)」の2プロジェクトのみである。今回の第2回ラウンドは、将来的なCDR需要の急増を見越した貯留容量の先取りといえる。

政策の不確実性が投資リスクに

一方で、業界からは懸念の声も上がっている。CCSAのレポートは、過去2年間で27の回収プロジェクトが一時停止または中止に追い込まれ、進行中のプロジェクトでも平均2年の遅延が発生していると指摘した。調査に応じた事業者の75%が、「明確な政策シグナルがなければ投資を海外へ振り向ける可能性がある」と回答している。

英国政府はCCS産業育成に最大217億ポンド(約4兆2,000億円)の支援を約束しているが、CCSAは、政府指定のクラスター(産業集積地)外にあるプロジェクトへの市場アクセスの欠如や、意思決定の遅さを課題として挙げている。オリビア・ポウィスCEOは、「2026年に適切な決定がなされれば数十億ポンドの民間投資を呼び込めるが、透明性がなければ他国に投資を奪われるリスクがある」と警鐘を鳴らした。

英国が世界有数のCDR市場としての地位を確立できるか、今回のライセンスラウンドと並行して進められる政策整備の行方が注目される。

参考:https://www.nstauthority.co.uk/news-publications/nsta-launches-uk-s-second-carbon-storage-licensing-round/

参考:https://www.ccsassociation.org/all-news/ccsa-research-reveals-uk-carbon-capture-sector-at-a-critical-juncture-as-project-pipeline-grows-but-policy-uncertainty-slows-progress/