COP30、日本主導で「6条2項先行国グループ」が共同声明 二国間クレジット市場の長期投資と実用化を加速

村山 大翔

村山 大翔

「COP30、日本主導で「6条2項先行国グループ」が共同声明 二国間クレジット市場の長期投資と実用化を加速」のアイキャッチ画像

ブラジル・ベレンで開催中のCOP30において、日本政府は11月19日、二国間クレジット制度(JCM)パートナー国とともに「パリ協定6条2項の二国間協力を推進する共同声明」を発表した。昨年のCOP29でパリ協定6条(市場メカニズム)の完全運用化が合意されたことを受け、日本を含む16カ国が「先行国(Early Mover)」として結束し、民間投資の呼び込みに向けた予見可能性の確保と、手続の合理化を世界に先駆けて推進する構えだ。

長期投資を呼び込む「予見可能性」と「透明性」

石原環境大臣はCOP30会場内のジャパン・パビリオンで開催された「第11回JCMパートナー国会合」に出席し、インド、モンゴル、チリの閣僚らとともに共同声明を採択した。

声明の核心は、脱炭素化に向けた「長期投資の確保」にある。世界規模の脱炭素化には前例のない規模の官民資金が必要とされており、6条2項(二国間協力)に基づくクレジット取引は、プロジェクトの収益源を創出する重要な鍵となる

共同声明では、投資家が安心して資金を投じられるよう、以下の3点を優先行動として掲げた

  • 長期投資のための準備加速
    排出削減量の算定における頑強で実用的な方法論の確立と、予測可能かつ透明性のある手続の整備 。
  • 参加拡大に向けた合理化と柔軟性
    環境十全性(Environmental Integrity)を維持しつつ、プロジェクト参加者の負担を軽減するために基準や規則を合理化する。また、各国の事情に合わせて技術的・手続的取り決めを柔軟に調整する「実践を通じた学習」アプローチを採用する 。
  • 能力構築(キャパシティ・ビルディング)支援
    パリ協定6条実施パートナーシップ(A6IP)などを通じ、制度構築が必要な国への支援を継続する 。

実績強調する日本型モデル「JCM

今回の声明は、日本が長年推進してきたJCMの実績を、パリ協定6条2項の「成功モデル」として世界に提示する意味合いが強い。

日本はこれまで、31カ国とパートナーシップを構築し、既に280件以上のプロジェクトを実施している 。これらのプロジェクトは、優れた脱炭素技術をパートナー国に移転し、測定可能な緩和成果を生み出しながら、現地の持続可能な開発にも貢献してきた

会合には、インドのヤーダブ環境・森林・気候変動大臣やモンゴルのバトバタール環境・気候変動大臣など、主要なパートナー国の代表が参加し、JCMが世界全体のGHG(温室効果ガス)削減に着実に貢献しているとの認識を共有した。

クレジット市場の「質」と「量」の確保へ

パリ協定6条を巡っては、二国間での協力をベースとする「6条2項」と、国連管理下の統一市場である「6条4項」が存在する。COP29で6条全体のルールブックが完成した今、焦点は「いかに早く、高品質なプロジェクトを組成するか」という実行フェーズに移っている

日本政府はJCMを通じ、2030年度までに累積1億トン、2040年度までに累積2億トンのCO2排出削減・吸収量の確保を目指している。今回の共同声明により、日本およびパートナー国は、複雑な国連交渉を待つことなく、二国間の合意ベースで迅速に高水準な市場形成を進める「先行者利益」を狙うとともに、この枠組みを世界標準へと押し上げる狙いがある。

今後、環境省は共同声明に基づき、民間企業が参画しやすい柔軟かつ実用的な制度運用を強化し、パートナー国のNDC(国が決定する貢献)達成と日本の削減目標達成の両立を図る方針だ

参考:https://www.env.go.jp/press/press_01799.html