EU委員会、CO2除去認証の実施規則を採択 「バイヤーズクラブ」創設で需要創出へ

村山 大翔

村山 大翔

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欧州委員会(European Commission)は2025年12月2日までに、欧州全域での炭素除去認証枠組み(CRCF)規則の運用に向けた最初の法的基盤となる「実施規則」を正式に採択した。あわせて公表された新たな「EUバイオエコノミー戦略」において、炭素クレジットの需要を喚起する「EUバイヤーズクラブ」の設立や、農業分野のモニタリングを支援するデータベース構築など、市場活性化に向けた3つの主要イニシアチブが明らかにされた。これにより、信頼性の高いボランタリーカーボンクレジット市場の構築と、欧州における炭素除去(CDR)および炭素農業(カーボンファーミング)の社会実装が加速する見通しだ。

認証制度の透明性と監査基準を統一

今回採択された「実施規則(EU)2025/2358」は、2024年12月に成立したCRCF規則を実務レベルで稼働させるための最初の二次法案である。

同規則は、認証スキームが遵守すべき透明性基準や、認証機関の任命・監督ルール、監査プロセスに関する明確な規定を設けている。特筆すべきは、小規模な農家や森林所有者の事務負担を軽減するため、炭素農業における「グループ監査」を可能にした点だ。これにより、個々の農家が単独で認証を受けるハードルが下がり、市場参入が容易になることが期待される。

認証スキームがCRCFの下で承認されるためには、認証活動やガバナンスに関する情報の公開が義務付けられ、2028年までに「連合レジストリ(Union Registry)」ですべての情報が一元管理されることになる。

市場を「点火」する3つの新イニシアチブ

欧州委は、CRCFの枠組みを支え、次の10年の気候配慮型バイオエコノミーを構築するために、以下の3つの戦略的イニシアチブを発表した。

EUバイヤーズクラブ(EU Buyers’ Club)の設立

CRCFクレジットのボランタリーカーボンクレジット市場を立ち上げるための需要側の起爆剤として機能する。企業の自発的な購入需要をプールすることで、炭素農業や永続的な炭素除去(CDR)に対する明確な需要シグナルを発信し、農家や森林所有者に新たな収益源をもたらす狙いがある。欧州委は2026年前半にワークショップを開催し、詳細を詰める予定だ。

EU炭素農業データベースの構築

コスト削減と炭素農業へのアクセス簡素化を目的に、計算モデル、排出係数、リモートセンシング成果物、ベンチマークデータセットを集約したデータベースを整備する。これにより、モニタリング・報告・検証(MRV)の効率が向上し、企業にとってはScope3の報告が、環境当局にとっては土地利用・土地利用変化及び林業(LULUCF)分野の温室効果ガスインベントリの改善が容易になる。

建築物における炭素貯蔵方法論の策定

2026年に導入予定のイニシアチブで、建築所有者が建物における炭素貯蔵性能(木材利用などによる炭素固定)を実証できるようにする。建設部門を循環型バイオエコノミーの原則に適合させるための重要なステップとなる。

2026年に向けた方法論の策定とロードマップ

欧州委は現在、具体的な認証方法論を定めた2つの「委任規則(Delegated Acts)」の最終調整に入っており、2026年の採択を見込んでいる。

  • 永続的な炭素除去(CDR
    大気直接回収・貯留(DACCS)、生物起源排出の回収・貯留(BioCSS)、バイオ炭(Biochar)などが対象。
  • 炭素農業
    農業、アグロフォレストリー、泥炭地の再湿潤化、植林などが対象。

認証スキームの認定申請は2026年初頭から開始される予定で、要件を満たしたスキームには5年間の有効期間が与えられる。今回の実施規則採択とバイヤーズクラブの発表により、欧州のCDR市場は「ルール形成」の段階から、具体的な「取引と実装」の段階へと大きく舵を切ることになる。

参考:https://climate.ec.europa.eu/news-other-reads/news/commission-adopts-rules-and-launches-initiatives-boost-carbon-removals-and-carbon-farming-eu-2025-12-01_en#:~:text=The%20new%20Implementing%20Regulation%20(EU,Carbon%20Farming%20(CRCF)%20Regulation.