米国のダイレクト・エア・キャプチャー(DAC)技術開発企業であるエアルーム(Heirloom)は12月2日、日本政策投資銀行(DBJ)および千代田化工建設から新たに出資を受けたと発表した。この戦略的投資は、将来的な日本の排出量取引制度(GX-ETS)における高品質な炭素除去(CDR)クレジットの活用を見据えたものであり、日本市場における技術的炭素除去の社会実装を加速させる狙いがある。
日本勢による相次ぐ出資と市場参入への布石
今回のDBJと千代田化工建設による出資は、エアルームに対する日本企業からの関心の高さを裏付けるものだ。同社は2024年12月に実施したシリーズBラウンドにおいて、日本航空(JAL)、三菱商事、三井物産といった日本の主要企業から支援を受けている。同ラウンドでは、既存投資家のフューチャー・ポジティブ(Future Positive)とローワーカーボン・キャピタル(Lowercarbon Capital)が共同リードを務め、総額1億5,000万ドル(約225億円)を調達した。
さらに、エアルームは直近でユナイテッド航空ベンチャーズ(UAV)の「サステナブル・フライト・ファンド」からも株式出資を受けており、最大50万トンのCDR購入権を付与するなど、航空業界との連携も深めている。
GX-ETSとDACクレジットの可能性
エアルームは一連の日本企業との提携を通じ、日本で整備が進む排出量取引制度「GX-ETS」への参画を視野に入れている。現在、GX-ETSはボランタリー段階にあるが、2026年以降には法的拘束力を持つ義務的遵守スキームへと移行し、アジアで2番目に大きな炭素市場になると予測されている。
この制度下において、DACのような工学的技術を用いた炭素除去は、検証済みのカーボンクレジットとして適格となる可能性がある。規制対象となる日本企業にとって、こうした高品質な除去クレジットは、自社の気候変動対策目標を達成するための重要な手段となり得る。
政策金融とエンジニアリングの融合
日本政府が全額出資する金融機関であるDBJにとって、今回の出資はDAC企業への初の投資案件となる。これは、日本のGX推進と2050年カーボンニュートラル目標の達成において、炭素除去技術が不可欠なインフラとして認識されつつあることを示唆している。
一方、千代田化工建設は、CO2の回収・利用に関する豊富なエンジニアリングおよび建設の経験を有する。エアルームは同社の知見を活用し、世界規模でのDAC技術の展開とシステム構築を加速させる方針だ。
エアルームの共同創業者兼CEOであるシャシャンク・サマラ(Shashank Samala)氏は次のように述べた。 「DBJと千代田化工建設からの投資は、クリーン燃料向けのCO2供給から恒久的な炭素除去に至るまで、脱炭素化の多様な役割を担う大規模DACシステムを構築するための技術的・財務的基盤を強化するものです。日本のエネルギーおよび産業界における両社の知見は、最先端の炭素技術が最もインパクトを発揮できる場所での導入を加速させるでしょう」
同社のDAC技術は、石灰石を用いて大気中のCO2を直接回収するもので、回収したCO2は地下への恒久貯留や、持続可能な航空燃料(SAF)の原料として利用することが可能である。
