INPEXは11月21日、新潟県柏崎市において「柏崎水素パーク」の開所式を行い、同施設の本格稼働を開始した。国内産の天然ガスを原料に水素・アンモニアを製造し、その過程で排出される二酸化炭素(CO2)を回収して地下へ貯留するCCS(炭素回収・貯留)を組み合わせた、日本初の一貫実証プロジェクトとなる。
天然ガス活用とCO2地下貯留の同時実現
本プロジェクトの最大の特徴は、化石燃料の利用と脱炭素化を両立させる「ブルー水素」のサプライチェーン構築にある。INPEXは、国内最大級の産出量を誇る南長岡ガス田から天然ガスを調達し、柏崎市平井地区の施設で水素およびアンモニアを製造する。
この製造工程で不可欠となるのが、副生されるCO2の処理だ。同施設では、発生したCO2を分離・回収し、近隣の枯渇したガス田(東柏崎ガス田)の貯留層へ圧入する。これにより、製造される水素・アンモニアはCO2排出を実質的に抑えたクリーンエネルギーとなる。
官民連携によるCCS技術の確立
本実証は、日本のエネルギー政策におけるCCS/CCUS(炭素回収・利用・貯留)技術の確立に向けた重要な試金石となる。水素・アンモニアの製造プラント建設には国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が助成を行い、CO2の地下貯留に関しては独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)との共同研究として実施される。
JOGMECとINPEXは2022年4月から共同研究を進めており、すでにCO2圧入井、ガス増進回収(EGR)坑井、観測井の掘削を完了している。今後は実際のCO2圧入を通じて、地下貯留能力の評価や長期的な挙動監視を行い、国内におけるCCS事業化に向けた技術的知見を蓄積する計画だ。
地産地消モデルと2035年に向けた展望
製造されたブルー水素の一部は、低圧・低温での合成が可能な新技術を用いてアンモニアに変換され、新潟県内で流通する予定である。また、併設された発電設備で生み出された電力は地域の送電網に供給され、「地産地消」型の低炭素エネルギーモデルの実証も兼ねている。
INPEXは長期戦略「INPEX Vision 2035」において、エネルギー安全保障の維持とネットゼロカーボン社会への移行を掲げている。今回の実証運転は2025年まで継続される予定で、政府による補助期間終了後も同社独自の資金による延長が検討されている。国内資源を活用しながらCCS技術を実装する本プロジェクトは、日本の脱炭素化および将来的なカーボンマネジメント市場の形成において、極めて重要な先行事例となるだろう。
参考:https://www.jogmec.go.jp/english/news/release/news_10_00083.html
