インドCO2排出規制緩和を巡り「スズキ包囲網」 ヒョンデ、タタなどが重量基準の撤廃を要請

村山 大翔

村山 大翔

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インド自動車市場における次期燃費・排出ガス規制を巡り、タタ・モーターズ(Tata Motors)やヒョンデ(Hyundai)など大手各社が、特定企業に有利な「抜け穴」が存在するとして政府に是正を求めていることが明らかになった。ロイター通信などが12月1日までに報じた。各社は、車両重量に基づく排出基準の緩和措置が、市場の公正な競争を阻害し、同国の電気自動車(EV)移行目標を遅らせるリスクがあると指摘している。

タタ、ヒョンデ、マヒンドラ&マヒンドラ(Mahindra & Mahindra)、そしてJSW MGモーター(JSW MG Motor)の4社は、インド政府に対し個別に書簡を送付した。その中で、計画されている新たな燃費効率規則において、小型車を対象とした重量ベースの排出量緩和措置を撤廃するよう強く求めている。競合他社は、この措置がインド最大手のマルチ・スズキ(Maruti Suzuki)1社にのみ不当な利益をもたらし、脱炭素化に向けた技術投資のインセンティブを削ぐと主張している。

問題の核心は、車両重量が909キログラム未満の車両に対する排出基準の緩和措置にある。競合各社の幹部は、この基準線が恣意的であり、軽量な小型車ラインナップを主力とするマルチ・スズキを優遇するためのものだと批判している。ヒョンデに近い関係者は「この譲歩は不公平な競争環境を生み出し、他社が厳格なコンプライアンス基準を満たそうとする中で、特定企業に価格競争力と規制コスト面での優位性を与えている」と述べた。

これに対し、マルチ・スズキ側は緩和措置の正当性を主張している。同社は「小型車は大型のSUV(スポーツ用多目的車)に比べて二酸化炭素(CO2)排出量が少ない」と反論し、排出総量の観点から小型車の優位性を訴える。また、制度の支持派は、急激な緩和撤廃が車両価格の高騰を招き、価格に敏感なインド市場の消費者を直撃すると警告している。

しかし、タタやヒョンデなどの競合他社は、CDR(炭素除去)やネットゼロの観点から長期的リスクを強調する。彼らは、レガシーな内燃機関車への優遇が続けば、メーカーが排出削減技術のアップグレードやEV開発への投資をためらう要因になりかねないと指摘する。タタ・モーターズは、こうした規制上の利益が「意図しない市場の歪み」を生み出しているとの懸念を示した。

インド政府および規制当局は現時点で中立の立場を維持しており、「環境目標、産業競争力、消費者利益のバランスを考慮する」との声明を発表している。市場アナリストは、政府が段階的な撤廃ロードマップを示すか、あるいは即時の撤廃に踏み切るかによって、マルチ・スズキの株価や市場シェア、ひいてはインド全体の脱炭素戦略のスピードが大きく左右されると分析している。

参考:https://www.reuters.com/sustainability/climate-energy/hyundai-tata-want-india-drop-fuel-emission-concessions-seen-benefiting-suzuki-2025-11-28/