スイス・モロッコ政府、パリ協定6条に基づく「屋根置き太陽光プログラム」を承認 ITMO創出へ約765億円の投資

村山 大翔

村山 大翔

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モロッコおよびスイス両政府は11月28日、パリ協定第6条2項に基づく温室効果ガス(GHG)削減活動として、大規模な屋根置き太陽光発電プログラム「ソーラー・ルーフトップ500(SR500)」を正式に承認した。ブラジルで開催されたCOP30(国連気候変動枠組条約第30回締約国会議)直後の決定であり、両国の気候変動対策におけるリーダーシップを示す動きとなる。本プログラムにより生成される排出削減量は、国際的に移転される緩和成果(ITMO)としてスイスへ移転され、同国のNDC(国の決定する貢献)達成に活用される。

プログラム型アプローチによる小規模分散電源の集約

「SR500」は、アフリカ・クライメート・ソリューションズ(ACS)が調整管理機関(CME)として構造化・管理を担う画期的なプログラムである。スイスのクリック財団(KliK Foundation)および両国当局と連携し、モロッコの商業・産業セクターにおける系統接続型の屋根置き太陽光発電システム(PV)を集約する枠組みを採用した。

個々の設備容量は3メガワットピーク(MWp)未満に制限されるが、これらを束ねることで、2030年までに合計500MWpの新規クリーン電源容量を確保する計画だ。ACSは、測定・報告・検証(MRV)システムの運用も統括し、認定された第三者検証機関(VVB)による独立検証を経て、排出削減量の透明性と追跡可能性を担保する。

本プログラムは、約5億ドル(約765億円)の投資を動員する見込みであり、モロッコの民間セクターにおける再生可能エネルギー導入を加速させる。これにより、化石燃料への依存度低減、GHG排出および汚染物質の削減が期待される。

資金調達と技術的障壁の解消

屋根置き太陽光発電は技術的に成熟しているものの、モロッコの商業・産業分野での普及は限定的であった。企業が高額な初期投資コストという「財務的障壁」や、システムの設計・保守能力の不足という「技術的・組織的課題」に直面していたためである。

ACSのマネージング・ディレクター、モハメド・アラウィ氏は「SR500は、プロジェクトを集約する標準化された枠組みを構築し、堅牢なデジタルMRVシステムを通じて透明性のある排出削減を保証する。炭素収益を動員することで、大規模な投資を実行可能なものにし、これらの障壁を克服する」と説明した。

クリック財団の炭素調達ディレクター、オーレリアン・ピレ氏は「パリ協定6条の下で、この種の屋根置き太陽光プログラムが初めて正式に承認されたことを嬉しく思う」と述べた。

また、同財団の北アフリカ担当ゼネラルマネージャー、アナス・フェルヒ氏は「モロッコで初めてクリック財団の資金支援を受け、スイスのNDC目標にカウントされる6条2項プログラムとして、SR500は効果的な協力的気候行動への有望な一歩となる」と指摘した。

「相当調整」による二重計上の防止

本プログラムの承認にあたり、モロッコ政府は「追加性」を確認した。これは、同プログラムによるGHG削減が、モロッコが自国の資金で達成を公約した「無条件NDC」の範囲を超えていることを意味する。SR500は、国際的な炭素金融や協力を前提とした「条件付きNDC」施策の実施に寄与する位置づけとなる。

また、モロッコ政府は、自国の排出量登録簿において必要な「相当調整(Corresponding Adjustments)」を行うことを確約した。これにより、創出された削減量がモロッコとスイスの両国で二重にカウントされることを防ぎ、パリ協定6条が求める環境十全性を確保する。

両国は2022年11月のCOP27で二国間気候協定に署名しており、これが共同削減活動の法的基盤となっている。モロッコ・エネルギー移行・持続可能開発省(MTEDD)は、プログラムが国内規制枠組み内で運用され、国の脱炭素化目標に直接貢献するよう中心的な役割を果たしてきた。

ACSは、緩和活動設計書(MADD)および証拠書類を通じて、炭素収益がプログラムの財務的成立に不可欠であることを実証した。関連文書はスイスの公式登録簿で公開されており、クリック財団の支援により創出されたITMOは、二国間協定に基づきスイスへ移転される予定である。

参考:https://www.klik.ch/en/news/news-article/morocco-and-switzerland-authorise-solar-rooftop-500/