エアバスのDAC技術がカナダで稼働開始 ISS生命維持システムをCO2除去に応用

村山 大翔

村山 大翔

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カナダの炭素除去プロジェクト開発企業であるディープ・スカイ(Deep Sky)は11月27日、同社が運営するイノベーション施設ディープ・スカイ・アルファ(Deep Sky Alpha)において、欧州航空宇宙最大手エアバス(Airbus)が開発した直接空気回収(DAC)システムの稼働を開始した。国際宇宙ステーション(ISS)の生命維持装置から派生した技術を用い、年間250トンの二酸化炭素(CO2)除去を目指す。

宇宙技術を気候対策へ転用

今回稼働したDACシステムは、エアバスの防衛・宇宙部門がISS向けに開発した生命維持システムをベースに、2023年に市場投入された技術である。わずか8カ月という短期間で設計から設置までを完了させた。

システムの中核には、固体アミンベースのフィルターが採用されている。大気中のCO2を吸着した後、加熱プロセス(温度スイング)を経て高濃度のCO2を放出・回収し、CO2を取り除いた空気を大気中に戻す仕組みだ。また、独自のエネルギー回収システムを組み込むことで、DACの課題であるエネルギー消費の最適化を図っている。

ディープ・スカイのCEO、アレックス・ペトレ(Alex Petre)氏は、「炭素除去(CDR)が気候変動に実質的な影響を与えるためには、数十億トン規模まで迅速に拡張可能な技術が必要だ」と指摘し、航空宇宙分野の知見を持つエアバスとの提携に期待を寄せた。

複数技術を競わせる「CDRハブ」構想

稼働地であるアルバータ州イニスフェイルの「ディープ・スカイ・アルファ」は、世界初のCDRイノベーション・商業化センターとして2025年8月に正式始動した。

同施設の特徴は、特定の技術に依存しないテック・アグノスティック(技術中立)なアプローチにある。エアバスに加え、フレア(Phlair)、ミッション・ゼロ(MissionZero)、スカイ・レニュ(Skyrenu)、スカイ・ツリー(Skytree)、カーボン・キャプチャー・インク(Carbon Capture Inc.)、GEベルノバ(GE Vernova)など、約10社の異なるDAC技術を同一条件下で稼働させる計画だ。これにより、各技術の性能を厳密に比較検証し、コスト削減と効率化に向けた最適化を進める狙いがある。

マイクロソフトらがクレジット購入を確約

本プロジェクトは、高品質なカーボンクレジットの創出源としても注目されている。ディープ・スカイはこれまでに、ビル・ゲイツ氏が設立した気候技術投資ファンド「ブレークスルー・エナジー・カタリスト(Breakthrough Energy Catalyst)」から4000万米ドル(約60億円)の資金確約を獲得している。

また、生成されるカーボンクレジットの買い手として、カナダロイヤル銀行(RBC)と米マイクロソフト(Microsoft)が既に契約を締結した。両社は10年間で計1万トンのCO2除去クレジットを購入するほか、最大100万トンを追加購入するオプション権も保有しており、長期的なオフテイク(引取)契約がCDR事業の商業化を後押ししている構図だ。

エアバスの参入は、重厚長大産業が持つエンジニアリング能力がCDR市場の拡大に不可欠であることを示しており、航空宇宙技術の地上転用という新たなトレンドを象徴する動きと言える。

参考:https://www.newswire.ca/news-releases/deep-sky-launches-operations-of-airbus-direct-air-capture-technology-at-canadian-facility-824731831.html