米国の市場調査機関サイトライン・クライメート(Sightline Climate)は11月21日、HSBCイノベーション・バンキング(HSBC Innovation Banking)の支援を受けて作成した最新レポート「クライメートテックのグローバル化(Globalization in Climate Tech)」を発表した。同レポートによると、クライメートテックの世界的重心が、ベンチャー投資主導の米国から、強力な炭素政策とインフラ計画を持つ欧州や主要新興国へと決定的に移行していることが明らかになった。
政策と炭素価格が牽引する「欧州の優位性」
レポートは、クライメートテックのフェーズが「実験的なベンチャー段階」から「大規模な社会実装段階」へと移行していると分析している。この局面において、ベンチャーキャピタルによる資金調達額では依然として米国がリードしているものの、実際のプロジェクト展開では欧州が米国を追い抜く勢いを見せている。
その最大の要因として挙げられるのが、欧州連合(EU)における強固な政策的枠組みだ。具体的には、EU域内排出量取引制度(EU-ETS)による明確な「炭素価格」の提示と、導入が迫る「炭素国境調整メカニズム(CBAM)」である。これらが産業界の脱炭素化への強力なインセンティブとして機能している。
特に、二酸化炭素(CO2)の輸送・貯留ネットワークといった「脱炭素インフラ」の計画的な整備が、欧州における重工業の脱炭素化を支えるバックボーンとなっている。実際、開発中の低炭素セメント生産能力の55%、建設中のプロジェクトの70%を欧州が占めており、産業転換が加速している現状が浮き彫りとなった。
インド・中東などの新興国が示す「実装力」
欧州と並び、新興国市場の躍進も著しい。インド、東南アジア、ラテンアメリカ、中東諸国は、多くの先進国よりも速いペースでプロジェクトを拡大させている。
各地域の主な動向は以下の通りである。
インド
クリーンエネルギー分野での突破口を開き、アンモニア生産能力で世界3位(年間2500万トン)、先進的な原子力発電能力で世界2位(17ギガワット)に位置している。
サウジアラビア
総額5000億ドル(約77兆円)規模の巨大プロジェクト「NEOM」を推進し、地域のエネルギーシステムを根本から再構築している。
チリ・オマーン・カザフスタン・モーリタニア
欧州向けの低炭素アンモニア供給拠点としての地位を確立すべく競争を繰り広げている。
シンガポール・ラテンアメリカ
廃棄物やバイオマスを活用したサプライチェーンの構築を進めている。
これらの動きは、炭素除去(CDR)や低炭素燃料のサプライチェーンが、グローバルサウス(新興・途上国)を中心としたメガプロジェクトによって定義されつつあることを示唆している。
技術そのものより「ガバナンス」が勝負の鍵に
サイトライン・クライメートは、今後の展開成功の鍵は技術革新そのものよりも「ガバナンス(統治・管理能力)」にあると指摘する。中米における電力連系プログラムや、欧州のCO2ハブ構想のように、調整された計画を持つ地域が投資を呼び込み、商用化を加速させているためだ。
同社のキム・ゾウ(Kim Zou)CEOは、各国の動向について次のように述べた。
「政策立案者は成長とエネルギー安全保障にますます注力しているが、多くの場合、それらの目標は気候変動対策と一致している。多くの経済圏にとって、安全保障とは単なるエネルギー確保以上の意味を持つ」
米国が公的資金による主要な気候変動プログラムから後退する兆しを見せる中、炭素価格という明確なルールと、国家主導のインフラ整備を進める地域が、次世代の産業覇権を握りつつある。
参考:https://www.sightlineclimate.com/request-report?report-id=globalization_in_climate_tech
