カリフォルニア州の気候関連開示法、控訴裁が「停止命令」を発出 排出量報告義務は当面維持でカーボンクレジット市場にも不確実性

村山 大翔

村山 大翔

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カリフォルニア州「SB 261」に一時差し止め命令

米国第9巡回区控訴裁判所は11月18日、カリフォルニア州の画期的な気候変動関連の財務リスク開示法(上院法案第261号、SB 261)の施行を一時的に差し止める命令を発出した。これにより、年間売上高5億ドル(約750億円)を超える企業に2年ごとに気候変動が財務に及ぼす影響を公開させる義務付けの導入が停止され、2026年1月1日の最初の報告期限に向けて準備を進めていた約4,100社に大きな不確実性をもたらしている。この命令は理由を明示せずに発令されたため、今後の規制当局の対応や期限の延期についても現時点では不透明である。

カーボンクレジット市場に不可欠な「排出量報告」(SB 253)は継続

SB 261の施行が停止された一方で、カリフォルニア州が導入を目指すもう一つの重要法案である温室効果ガス(GHG)排出量報告法(上院法案第253号、SB 253)は、裁判所が差し止めを拒否したため、現行のまま効力を維持している。SB 253は、年間売上高10億ドル(約1,500億円)を超える企業に対し、Scope3排出量を含むGHG排出量の年次報告を義務付けるものであり、約2,600社が対象となる。

SB 253の重要性、企業が自社のScope3を含めた包括的な排出量を測定・開示することは、炭素除去(CDR)やカーボンクレジットの需要と取引価格を予測する上で市場の透明性を高める土台となる。排出量の正確な把握なくして、カーボンクレジットを通じた排出量削減・相殺戦略は成り立たないため、SB 253の存続は炭素市場関係者にとって重要な要素となる。

財務リスクと排出リスクの関係、SB 261が企業への気候変動の物理的・移行リスク(例: 規制強化に伴う座礁資産リスク)の開示を求めていたのに対し、SB 253は企業が地球温暖化に与える排出影響そのものを問うている。カーボンクレジットを運用する企業にとって、SB 261は投資家保護や事業継続性の観点から重要であったが、SB 253はクレジット需要の源泉となるため、両法案の行方は米国の排出削減義務付けの試金石として注目されている。

産業界の反発と憲法上の論点

この差し止め命令は、全米商工会議所(U.S. Chamber of Commerce)をはじめとする業界団体が主導する訴訟の結果として発せられた。業界団体側は、両法が企業の合衆国憲法修正第1条で保障される言論の自由を侵害し、莫大なコンプライアンスコストを課すものだと主張している。

カリフォルニア州の規制当局であるカリフォルニア州大気資源局(California Air Resources Board=CARB)は、これらの法律は一般的な財務開示の規範を反映したものであり、思想的な発言を強制するものではないと反論している。

今後の焦点と炭素市場への影響

SB 261の差し止めは、米国において州がどの程度まで気候関連開示を義務化できるか、そしてそうした義務化が憲法上の異議に耐えうるかという点で、全国的な先例として厳しく監視されている。

特に、SB 253が要求するScope3排出量の算定は、多くの企業にとってCDR技術の導入や高品質なカーボンクレジットの購入を通じてサプライチェーン全体の排出量を管理するインセンティブとなり得るため、この報告義務が維持されることは、今後の米国の自発的・義務的な炭素市場の発展に直接的な影響を及ぼすことになる。最終的な司法判断が下されるまで、関連企業は規制動向を注視する必要がある。

参考:https://legiscan.com/CA/text/SB261/id/2844343